セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

鎌倉投信の第9回「結い2101」受益者総会(その3)

鎌倉投信の第9回受益者総会の模様、最後のパートです。

<その1> ⇒ こちら
・開会あいさつ(鎌倉投信・鎌田恭幸さん)
・結い2101 第9期 決算・運用報告
・基調講演(伊那食品工業 代表取締役副社長 塚越英弘さん)

<その2> ⇒ こちら
・”いい会社”の経営者講演(コタ 代表取締役社長 小田博英さん)
 パネルディスカッション

<その3> ⇒ 本記事
・これからの挑戦(前 鎌倉投信 資産運用部長 新井和宏さん・IKEUCHI ORGANIC 会長 池内計司さん・社長 阿部哲也さん)
・これからの鎌倉投信(鎌田さん)

鎌倉投信退任と新会社「eumo」について(前・資産運用部長 新井和宏さん)

8月に退社した前・運用責任者の新井和宏さんが、先ごろ設立した新会社「eumo」の代表として登壇し、独立の経緯と今後のビジョンを説明されました。

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・新会社eumo(ユーモ)は、「持続的幸福」を意味するギリシア語の「ユーダイモニア」からとっている。

鎌倉投信10年でできなかったのが非上場株式への投資という課題(非上場企業6社への投資は全て社債です)。法的には投信でも非上場企業に投資可能だが、個人投資家保護の要請などいろいろなハードルがあり、結局できなかった。(日々の時価の算定の問題もあると思います。)

・直接的な契機として、IKEUCHI ORGANICの資金調達の件があった。IKEUCHIは鎌倉投信のお金だけではなく、ベンチャーキャピタルからも出資を受けているが、今年の9月末がVCのファンド期限となっている。

・鎌倉投信の運用を続けながら、別の会社でIKEUCHIを支える方法をいろいろ検討したが、利益相反が生じどうしてもできなかった。なので、eumoを設立し、VCの保有するIKEUCHIの株式を譲り受けることになった。

・鎌倉投信の中で後進を育てることはできなくなるが、外部から違う立場で育てることはできると思っている。

・新会社eumoの経営理念は「共感資本社会の実現」を目指すこと。そのために、人財(教育)、お金(投資と資金循環)、文化(普及啓蒙)の3つを柱に事業を進める。非上場企業を共感資本によって支える仕組みを作る。

・鎌倉投信で10年やってきて分かったのは、地域のベンチャーを育てるには、お金だけでは不十分で、人を育てること、いい人を送り込むシステムが必要ということ。都市の人財と地域のソーシャルベンチャーをつないでいく。

・新会社eumoがサポートするのは非上場企業だが、数年後にもeumo自身は上場し、鎌倉投信に投資してもらえる会社になりたい。結い2101の投資先の経営者として、受益者総会の壇上に上がるのが目標。

ここ数年の新井さんは、ファンドの運用のかたわら、日本全国の地域のいい会社やソーシャル関連の活動も増えていたので、遅かれ早かれ鎌倉投信を去ることになるのかな、と何となくは思っていましたが、急に思える独立の背景に、IKEUCHI ORGANICへのファイナンスの件があったとは驚きました。

新井さんは以前から鎌倉投信の次の10年のことも語っていただけに残念ですが、新井さんとIKEUCHI ORGANICの長く深い関係を考えれば道理にかなったことだし、IKEUCHIファンのひとりとしても応援していきたいです。

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IKEUCHI ORGANICの池内代表、阿部社長も登壇し、コメントされました。

阿部さんは「出口が見えない時はいつも鎌倉投信、新井さん、鎌田さんを頼ってきた」と言っていました。阿部さんは池内代表から2016年に社長職を引き継ぎました。同じく社長職を引き継ぐ予定の伊那食品工業の塚越副社長の話(前記事)は、カリスマ的経営者から経営を継承する身としてとても響いたそうです。

池内さんには池内さんにしか作れない世界観がある、それは前提の上で、池内さんがつくってきたものをどう次の世代につなげていくか、会社を持続可能にしていくかが自分の役割と話してくれました。

池内さんから、8月にオープンした香港の店舗の話が紹介されました。
現地のIKEUCHIファンの事業家が、パッと見は直営店のような、IKUECHI ORGANIC専門のお店を独自にオープンしてしまったという話です。IKUECHI ORGANICの企業価値を示すエピソードです。

さて、新井さんの新事業は、非上場企業が、上場というかたちは取らなくとも持続的に成長していけるような、人財とお金のプラットフォームを構築しようとするチャレンジです。

話を聞いていて、個人的には、株式保有の原資(投資家からの出資?ファンド?)、金商法の枠との関係や、雑談まじりに出てきた「eumoポイント」(トークン?)のことなど、興味は尽きませんでした。近々に事業説明会も予定しているとのこと。

先日も書いたのですが、上場企業は鎌倉投信、非上場企業はeumo、という2社がそれぞれ車の両輪として、共感に基づくお金の流れをつくっていってくれると期待しますし、いろいろな形で参加していきたいです。

「共感資本主義」を感じた、IKEUCHI ORGANICの記事です。

これからの鎌倉投信

締めくくりは、再び鎌田さんより、今後の鎌倉投信の方向性についてのプレゼンテーションでした。

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・結い2101の会社選びの3つの軸「人」「共生」「匠」の中には、35個ぐらいの定性評価項目がある。(オンリーワン、人財多様性、循環型社会創造、現場主義・・・etc.) そうやって評価した会社が、実際に安定的に成長している。社会性と事業性をあわせ持った「いい会社」がパフォーマンスもいいことを示すことができている。

結い2101が設定から8年半たって、ようやく時代が追い付いてきたと感じる。それは、ESG投資の広がりであり、SDGsの流れ。世の中全体が、企業活動の社会性に着目し始めている。鎌倉投信の定義する投資のリターン=「資産形成×社会形成×こころの形成」という考え方は先見の明があったのではないか。

・商業資本主義 → 工業資本主義 → 金融資本主義、という歴史の大きな潮流を考えると、21世紀は「社会価値創造型の資本主義」の時代だといえる。現代は資本概念そのものの転換期にある。モノを増やす時代の経営は効率性が求められたが、価値創造の時代は思考力、革新性が求められる。価値を生み出す源泉が変わってくる。AIの時代には、モノ、情報、技術そのものではなく、それらを統合して価値を生み出す人間力と智恵が資本となる。

・だからこそ、鎌倉投信の視点はより社会に求められるようになっていく。
今後の鎌倉投信に求められるのは、
- 「いい会社」「いい会社とは何か」を探求する力
- お客様の資産をまもり、安定運用を図る技術
- 投資先やお客様との対話の「質」
長く投資を続けてもらうために、8年半積み上げてきたものを、一層強化していく。

・チームづくりの方向性の基本は、投資哲学、運用方針、運用態勢の一貫性。新井さんが退社し運用者が変わっても決して変わらない。そのため、今後も独立系を貫く。

・運用力を高め続けるための人財採用も進める。現在は運用に関わる資産運用部+ファンド管理部で5人だが年内に2人程度は増やしたい。また、役職員は15人→当面25人体制ぐらいを目指している。

・鎌倉投信が取り組むべきは「社会性のあるお金の循環」。上場、非上場企業から、非営利(寄付)への方向性も将来的には視野。

→ 最後の非営利や寄付の話は、新井さんも以前から「いいNPOのリスト化」という話をしていたので、今後どんな形になっていくか関心があります。

 

今年の総会をまとめると、変わらぬ理念と哲学、運用プロセスをしっかり確認できたことと、創業10年が経ち、セカンドステージに向けての決意を聴けたこと、の2つでしょうか。

永続的に社会価値を生むいい会社がふえるためには、鎌倉投信のような企業が長く続いていくことが必要です。新井さんの退社は大きな節目となりますが、若い方も育ってきているので、鎌田さん、新井さんが培ってきたものを次世代につないでいってくれるよう願います。