セルフ・リライアンスという生き方

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スパークスのESG投資:再生可能エネルギー投資と対話型ファンドの取り組み(JSIFセミナー)

JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)の会員向けセミナーで、独立系運用会社スパークス・グループのESG投資について聞きました。

スパークスは、従来よりESG的な考え方を運用の中で実践していますが、今年の2月、PRI(責任投資原則)に署名し、明確にESGへの取り組み姿勢を示しました。

(講師)
スパークス・グリーンエナジー&テクノロジー(SGET) 代表取締役 谷脇栄秀 氏
スパークス・アセット・マネジメント シニアアナリスト 水谷光太 氏

谷脇氏より再生可能エネルギー投資について、水谷氏より日本株ファンドでのエンゲージメントの実際を紹介頂きました。

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スパークスの再生可能エネルギー投資(谷脇氏)

・2012年に東京都の官民連携インフラファンドの事業者に選定され、再生可能エネルギー施設の開発、運営に特化した子会社SGETを設立し、本格的に運用開始。

・再生可能エネルギーファンドの資産規模は1,800億超。開発した発電所は全国27ヶ所、発電量は約429MW(原発約1/2基分)。メガソーラーを中心に、風力、地熱、バイオマスも手掛ける。
(参考)SGETの発電所プロジェクト一覧

・発電所ごとにSPCをつくり、ローン(ノンリコ)とエクイティを原資に開発するスキーム。コストが多少高めでも、安定的な運用のため信用力のあるメーカー、事業者を選んでいる。

・インフラファンドは関係者が多岐に渡るので、多様な当事者(地権者、自治体、金融機関、電力会社、EPC事業者、O&M業者、・・・)との関係づくりがとても大事。地権者交渉の段階からスパークスが関わる。地方自治体との連携のもと、公有地を活用した案件が多い。

・もともとグリーンフィールド(開発型)が中心だったが、最近はブラウンフィールド(運転開始後の発電所を取得するタイプ)のファンドも運用開始。

スパークス、200億円のインフラファンド、500億円に拡大も - ニュース - メガソーラービジネス : 日経BP社

・再生可能エネルギーの固定価格買取制度は国民負担(再エネ賦課金)で成り立っている。スパークスが再生可能エネルギーファンドを手がける意義は、売電収入を国民に還元することで、再エネ普及のための資金サイクルをつくること。

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(経済産業省「再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック」より)

スパークスのエンゲージメント型ファンドの取り組み(水谷氏)

スパークスの運用哲学

「マクロはミクロの集積」。企業収益の質、市場成長性、経営戦略に注目し、企業の実態価値と株価との「バリュー・ギャップ」と、割安状態が解消される“きっかけ”=「カタリスト」を見極めて投資する。
→ スパークスのファンドに共通する考え方です。

エンゲージメント(対話)型ファンド

エンゲージメント型ファンドは、ESGのうち主に「G」に着目。通常のファンドはカタリストを待つが、エンゲージメント型ファンドは、積極的に投資先と対話することによって、スパークス自身が投資先の経営の質を高めるカタリストの役割を果たす。
→ 受け身ではなく、投資家自ら経営に働きかける「アクティブ」な運用です。

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(スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンド 目論見書より)

具体的には、ビジネスの質がよいのに、ガバナンス・経営の質に改善の余地がある企業に投資し、対話を通じて企業価値を上げていく。
小型株中心のバリュー・インパクト・ファンドと、中大型株がより多いスチュワードシップ・ファンドの2種類を運用。銘柄数は前者は一桁、後者は15社といずれも超集中投資。
→ 公募投信の「スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンド」は後者です。

なぜエンゲージメントが必要か?

受益者・アセットオーナー ⇔ 運用会社 ⇔ 企業、という資金の委託・受託関係の一連の連鎖=インベストメント・チェーンを正しく機能させ、資本の最適な配分を実現するために、エンゲージメント(目的を持った対話)が必要。

日本では、政策保有株式の持ち合いに代表されるように、投資家が株式を「保有しない」「売却する」行動をとっても、経営者が企業価値を向上させようというインセンティブが働かない場合がある。保険でも年金でも、インベストメント・チェーンの最終的な受益者はひとりひとりの個人であり、エンゲージメントによって企業活動の規律を高めることは国民の利益につながる。

帝国繊維のケース

エンゲージメントの具体例として、投資先である帝国繊維の事例が紹介されました。
帝国繊維は、消防用ホースの最大手。芙蓉グループの一員で、役員は富士銀行出身者が多く、株主にもみずほ系が並びます。

スパークスは、帝国繊維は優良なビジネスモデルを持ち利益率も高い一方、経営者にROEを高めるインセンティブが働いていない典型的な企業と考え、4年にわたり対話してきました。しかし、今般、株主還元(配当実施)と取締役任期短縮を求める株主提案に踏み切りました。

帝国繊維は優良な防災製品事業を営みながらも、時価総額は約594億円と、予想当期利益30億円、保有する金融資産約425億円を考慮すると、株式市場で十分な評価を受けていません。その主な要因は、同社の非効率な資本配分にあると提案株主は考えます。

同社は、本業とシナジーの薄いヒューリック株式会社の持合い株式を約225億円も保有しているほか、成長投資にも株主還元にも使用されない現預金および有価証券を約208億円保有しており、自己資本利益率(ROE)上昇に対する重石となっています。
スパークスAMのリリースより)

多額の持ち合い株は少しずつ売却を、不必要に貯め込んでいる現金は将来への投資に、そして株主にも還元を、という真っ当な要望です。スパークスは「合理性を欠く内部留保問題の象徴的事例」、と表現しています。

水谷さんからは、具体的に今までどう対話してきたのか、経営側にどのような変化があったのか、そしてこのタイミングで株主提案に至った理由などについて、リアルな話が聞けました。(詳しくは書けませんが運用現場の話は面白かったです)

感想

個人ではなかなか聞けない実務面の話が多く有用でした。
前半の再生可能エネルギー投資は予備知識がありませんでしたが、上場インフラファンド各社の資産規模と比べても、スパークスは国内のトップクラスにいます。スパークス=日本株のイメージが強いですが、再エネ以外にも、不動産(ヘルスケア)、ベンチャー投資と投資対象は幅広いです。

後半のエンゲージメントの話は、ESGの「G」、スチュワードシップに関する最前線の話題で、とても参考になりました。
帝国繊維の件は、スパークスが対話から強硬措置に転じたと単純に報じられていますが、月次レポート等で「今後も建設的な対話を継続していく」とある通り、今回の株主提案も長期的な対話の一貫だと感じました。

スパークスの取り組みが呼び水となって、運用業界全体に同様の対話が波及すればいいと思います。資本市場とインベストメント・チェーンを変える「カタリスト」ですね。

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