セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

ソーシャルファイナンスの教科書(河口真理子・著)【書評】

「社会性」と「収益性」をあわせもつ金融・投資=「ソーシャルファイナンス」の入門書です。

「社会性」と対極にあった金融の世界で、なぜ社会性が注目されるようになってきたのか、そもそも「投資」や「金融」、そして私たちのお金が社会のあり方とどう関わるのか、分かりやすく書かれています。

著者は、大和総研主席研究員で、社会的責任投資フォーラム(JSIF)の共同代表理事でもある、河口真理子さんです。

最近の自分の投資に対する意識と、とてもマッチしていて、ページをめくるたびにうなづいていました。

自分のお金が「社会」のために働く

この本のメッセージは、サブタイトルに込められています。
「社会」のために「あなたのお金」が働くということ

まえがきの一文を引用します。

「無力に思えるひとりひとりがどうやってお金を使い、お金にどこに働きに行って、どうやって働いてもらうのかという選択をすることが私たちの将来を決めていくということです。」

投資は自分のため、だけではなく、社会のためでもある
よりよい社会のために自分のお金の働き先を選べば、社会もよくなるし個人の幸せにもつながる

というシンプルな考え方です。

投資家が変える社会

河口さんは、個人個人の投資のしかた次第で、社会は変わっていくということを繰り返し述べています。

短期的には、劣悪なブラック企業が株価も上がって儲かるかもしれませんが、長期的には、従業員をきちんと処遇したり、環境に配慮する会社の方が、企業価値は向上し、投資家にもリターンがもたらされるでしょう。

このように、さまざまな社会課題や環境への取り組みを重視する投資家が増えれば、企業側のマインドも変わり、よりよい社会形成、ひいては個人の幸せにもつながります。

だからこそ、ひとりひとりがお金を託す先を「積極的に選ぶ」のが大事だ、というのはその通りだと思います。

最近は、こういった考え方への共感から、個人の投資に占めるアクティブファンドの割合がやや高くなってきました。
(本では鎌倉投信やコモンズ投信も紹介されています)

※アクティブファンド=ベンチマークを上回る成果を目指すもの、とされていますが、ソーシャルファイナンス的に言うと、投資先を「積極的に選ぶ」という意味でのアクティブファンドという考え方もあるかな、と思いました。

河口さんによると、今までは、サステナブル投資のセミナー、というと、投資に興味のない環境分野やNPOなどの人ばかりで、肝心の投資家が来ないというミスマッチにもどかしい思いをしてきたそうです。

しかし、ESGやインパクト投資、クラウドファンディングの普及など、広い意味での社会性を考慮する投資家が、個人から機関投資家までいろいろなレベルで増えているのは確かで、このミスマッチは徐々に埋まってきています。
企業サイドもこういった流れに対応し始めています。

自分のまわりを見ても、いわゆる「社会課題」や「持続可能性」の観点を重視する、または重視しないまでも、頭のかたすみに置いて投資先を選ぶ、という人は増えています。

所感

最初から最後まですんなり読めて、とても共感できる内容でした。
個人的には、具体的な商品(SRIファンドやマイクロファイナンスファンドなど、インパクト債、セキュリテなど・・)の実例や、SRI、ESG、インパクト投資といったサステナブル投資の歴史も解説されていて勉強になりました。

本論と少しずれますが、アダム・スミスが実は物質的富と心の豊かさは別と考えていた、という話題に関連して、市場経済の中でも「100%利己」ではなく、「利他」を加えることが幸せにつながる、という一節は、先日の「いい会社をふやしましょう」での鎌田實さんのお話と全く同じだなと感じました。

「いい会社の力」シンポジウム・鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)『自分にもできる少しだけの貢献』

タイトルは難しそうですが、冒頭に「お金との付き合い方」とある通り、投資や金融の本来の役割を分かりやすく教えてくれる良書です。

投資には全く関心がない、あるいは逆に環境問題や社会問題には関心がある、という人にも読んでもらいたいです。
「金融」や「投資」に対するイメージが変わるのではないでしょうか。