セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

【書評】「世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー」

コンシャス・カンパニー(意識の高い会社)、コンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)を論じた本です。

「意識が高い」というと精神論ぽいですが、そうではなく、邦題(「世界でいちばん大切にしたい会社」)のとおり、社会に貢献しながら発展し続ける「いい会社」の共通点と方法論をまとめた、実践的な経営書です。



◎全てのステークホルダーに貢献した結果としての利益

一冊を通して流れているのは、コンシャス・カンパニーたる企業に共通している、ステークホルダーと株主利益に対する考え方です。

「どんな企業にもステークホルダーが存在する。意識の高い企業はこのことを十分に分かっているので、主要ステークホルダーすべてのニーズを満足させたいと考え、これを目標としている。一方、昔ながらの企業は投資家以外のステークホルダーを、利益最大化という最終目標を達成するための手段とみなしがちだ。」(p90より)
利益とは、存在目的、素晴らしい商品やサービス、顧客満足、社員の幸福、社会や環境への貢献の副産物なのだ。」(p371より)

企業の目的は、株主の利益最大化ではなく、顧客、従業員、経営者、取引先、投資家、コミュニティ・・・といった、企業とつながりを持つすべてのステークホルダーに対する貢献です。
利益は目的ではなく、あくまで結果としてもたらされる、という考え方です。

経営学の教科書では、ステークホルダーの利害は基本的に対立しています。例えば、賃金を上げれば、利益が減り、株主が文句を言う、という具合です。

しかし、確固とした存在目的とコアバリュー(理念)、意識の高いリーダー、リーダーが変わっても受け継がれる企業文化を備えた会社では、全てのステークホルダーは、同じコアバリューのもとに目的と価値を共有し、同じベクトルに向かって協力し合う関係になります。

その方が長期的に会社が発展し、会社にかかわる人たちがみんなハッピーになることを理解しているからです。

逆に言うと、全てのステークホルダーが、会社の存在価値と理念をしっかり理解し、共有しているかどうかが、「いい会社」かどうかの一つの基準かもしれません。

◎従来型企業とコンシャス・カンパニーの違い

自分なりに、この本で出てくる、「従来型の企業」と、「コンシャス・カンパニー」を表すキーワードを並べてみました。

従来型企業
株主偏重、短期的、利益最大化、株価=価値、ゼロサム的分配、投機家、恐怖とストレスによるマネジメント、モチベーションは給料のみ

コンシャス・カンパニー
全てのステークホルダーへの貢献、長期的、持続性、利益は副産物、見えない価値、忍耐強い投資家、協調と公正な分配、愛と思いやり、情熱と幸福感による動機づけ

どうでしょうか。
単純に言葉を並べただけでも、後者のような会社が増えた方が社会的に望ましいですし、自分が働いたり、投資するとしても、「意識の高い」会社の方がいいと感じます。

「会社なんてしょせんブラック」と言う人もいますが、この本には、こんな会社に入りたかったなと思えるコンシャス・カンパニーがたくさん出てきます。

個人投資家としても興味深かったです。
株主偏重ではなく、「社員と人を大切にする会社」であったり、従来型のCSRとの違いなどは、鎌倉投信のいい会社像と非常によく重なります。
例えば、鎌倉投信では、よく「従業員、取引先、お客さん、地域の人、みんなが『あの会社さんはいい会社だよね』というのがいい会社」と表現します。この本の考え方とそっくりです。

また、「対話による価値創造」や「見えない価値」などコモンズ投信の理念とマッチする部分も多いです。
道徳と社会あってこその企業、という部分は、渋沢栄一の「論語と算盤」にも近いかもしれません。

ちなみに、本書の「忍耐強い投資家」の項目では、著者が経営するホールフーズ・マーケットを、株価が低いピンチのときに買い増して支えた長期投資家として、「セゾン資産形成の達人ファンド」も組み入れている投信会社、Tロウ・プライス も出てきます。

コンシャス・カンパニーはパフォーマンスもよい

『「意識が高い」とかいって、そんな会社は儲からないのでは?』という問いにもきちんと応えています。

例えば、フォーチュンとGPTW研究所という機関が毎年公表している、「最も働きがいのある100社」の株価パフォーマンス(1997年~2011年)は、同時期のS&P500(+3.71%)を大きく上回る+10.32%だったそうです。

その他にも、「コンシャス・カンパニー」の業績や投資リターンが優れていることを示す実証データが紹介されています。
この本の説得力を高めている部分で、一見の価値ありです。

◎体系的な「いい会社」本

400ページあり、ひさびさに読み応えのある本でした。
その分、実際の企業の取り組み事例も豊富ですし、存在目的とコアバリュー、ステークホルダーとの関係、リーダーシップ、企業文化の各項目について、マネジメントのテキストとしても十分通用するぐらい体系的に書かれています。

日本よりも株主のパワーが強く、短期的な利益重視志向が強いと思われるアメリカで、こういう本が出版され、反響を呼んだのは意外です。
それだけ、リーマンショックなどをきっかけに、「従来型資本主義」の限界が意識され始めているのでしょう。

「いい会社」や社会性に共感して投資をしている鎌倉投信の受益者さんにはとても響く内容だと思いますし、個別株や投信で長期投資をしている人にも、企業の価値を改めて考えてみるきっかけになるでしょう。
今は個別株は持っていませんが、この本に出てくる会社に、実際に投資してみたくなります。

そして何より、「コンシャス・カンパニーを増やすこと」が目的と書いてあるとおり、たくさんの経営者の方がこれを読んで、「いい会社」が少しずつ増えていけば素晴らしいと思います。