先日入会したNPO法人、社会的責任投資フォーラム(JSIF)主催の、GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)のセミナーに行ってきました。
最近は、不動産の世界でも、「環境不動産」などサステナビリティが話題になる機会が増えています。不動産分野のESGということで、本業の鑑定士半分、個人投資家半分として参加しました。
講師は、CSRデザイン環境投資顧問の高木智子氏。同社は、J-REIT運用会社など向けのGRESB調査参加のコンサルや、環境不動産関連の調査受託等をしている専門会社です。
●GRESBとは
・Global Real Estate Sustainability Benchmark(グローバル不動産サステナビリティベンチマーク)。“グレスビー”と読む。
・GRESBは、国連のPRI(責任投資原則)以降拡大しているESG投資を、不動産セクターに適用するため、ヨーロッパの年金など機関投資家が創設した不動産サステナビリティ指標。企業への投資と同じく、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した不動産投資が長期的なリターンにつながるとの考えに基づく。
・メンバーは欧米の機関投資家、金融機関、大手不動産会社など約200社。
調査に参加する不動産プレイヤーは700社以上。日本の参加社は35社、うちJ-REITが21社と拡大中。
・既にあるCASBEEやDBJ Green Building認証が個別物件単位の認証・評価なのに対して、GRESBは不動案会社、運用機関全体を評価するところが異なる。
・各企業、運用会社の「マネジメントと方針」、「実行と計測」の2軸をもとに評価し、優れた企業には「グリーンスター」を付与する。
(例)グリーンスター取得のプレスリリース(日本リテールファンド)
GRESB 調査結果に関するお知らせ:最高位の「Green Star」を取得(PDF)
・2015年調査では、積水ハウスSI、日本プライムリアルティ、ヒューリック、さらに物流のグッドマンがアジアのセクターリーダーに選定された。日本の会社も高い評価を得始めている。
●GRESBの評価項目
・計60項目に及ぶ。参加企業は毎年オンライン調査で回答。物件別のエネルギー消費量など詳細な裏付け資料も提出する必要がある。検証も厳しく、オランダの担当者が詳細なヒアリングに来たりもする。
・評価分野は以下の7項目。
「マネジメント」「ポリシーと開示」「リスクと機会」「モニタリングと環境管理システム」「パフォーマンス指標」「グリーンビル認証」「ステークホルダーとの関係構築」
単なるハード面の環境対応だけでなく、ガバナンスやステークホルダー(テナント、外部業者、地域コミュニティ)との関係などソフト面も含むトータルなESG評価。
・日本企業の評価も上がっているが、グローバルと比較して「第三者のレビュー」の部分は改善の余地あり。
・海外では環境不動産の指標として、省エネルギー格付が普及している。イギリスでは、格付の低いビルは2018年以降賃貸不可となる。オートラリアでは省エネ格付をテナント募集表示に義務化している。
一方、日本は最近BELS(建築物省エネルギー表示制度)が創設されたばかりで、従来は「グリーンビル認証」の項目の評価が低かったが、今後の動きに注目。
※物件の用途別にみた場合、賃貸マンションよりもオフィスビルの方が、共用部が相対的に多く、LED化や空調リニューアルなど、オーナー裁量による環境投資の余地も大きいので、高い評価が得やすいのでは?と質問しました。
実際には、レジリートであればレジリート同業他社との相対評価の面が大きいので、用途によってグリーンスターを取りやすい、取りにくいということはないとのことでした。
●GRESBとリターンの関係
・CASBEEやグリーンビルディング認証を取った環境不動産は、他の条件を同じとした場合、平均賃料が数%高いという実証結果が出ている。また、GRESBスコアと各国のREITのリターンには正の相関が認められるとの研究もある。
・賃料upとコストdown(水道光熱費等)、さらにキャップレート低下により、物件価値向上につながることが共通認識となりつつある。実証データが蓄積されれば、投資家の注目度も高まり、参加企業が増えるという好循環が生まれる。
・新耐震と旧耐震のビルのように、ゆくゆくは環境対応の有無がテナントの入居可否や収益性・利回りに明示的に影響するようになる可能性がある。
・欧米の機関投資家はすでにGRESBを投資判断に積極的に活用している。例えば、オランダの公的年金APGでは、GRESB参加の有無やスコアを投資判断に組み込む「ESGデューデリ」を行っている。
●所感
GRESBの仕組みと位置付け、最新のトレンドがよく分かりました。やや遅れ気味だった日本も、J-REIT中心に参加が増えています。
たしかに、REIT各社は、GRESBだけでなく、DBJの認証取得やグリーンリースなど、サステナビリティの分野で結構頑張っている印象があります。実際には、REITの知人によると、従来の運用業務に加えて、GRESB調査や各種認証の対応は事務的に負担が増えるので大変そうですが。。。同業他社がやっているからうちもやらないと、という面も大きいでしょうし、欧米の機関投資家からのプレッシャーもあると思います。
きっかけはどうあれ、不動産は、人が住む、働く場としてのベーシックな財なので、こういった環境配慮やESGの流れが広まるのは正しい方向です。
不動産鑑定士がやっている個別物件の評価でも、環境性能やオーナーのESG配慮をより深く分析し、収益性や利回りの判断に反映するような時代が近いかもしれません。