セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)セミナー「世界のサステナブル投資の動向」

5/15に、個人会員になっているJSIF(NPO法人日本サステナブル投資フォーラム)のセミナーに参加しました。

世界全体のESG投資・サステナブル投資の最新動向についてまとめた“Global Sustainable Investment Review 2016”について、JSIF会長で、元・大和証券投資信託委託の荒井勝さんの解説でした。

Trends Report 2016 | GSIA

日本のサステナブル投資動向

世界の動向を知る前段として、日本の状況から。

JSIFでは、日本の機関投資家に対するサステナブル投資の取組状況のアンケート結果を、今年2月に「サステナブル投資残高調査2016」としてまとめました。
(PDF)サステナブル投資残高調査 2016 - 日本サステナブル投資フォーラム

・サステナブル投資残高は前回調査より2倍以上に増加
 約27兆円(2015年)→ 約56兆円(2016年)
 これに、個人向けの公募投信や社会貢献型債券も加えた残高は約57兆円。海外と比べると、個人向け商品が少ないのが課題。

・手法別にみると、「エンゲージメント・議決権行使」「ESGインテグレーション」が大半。運用プロセスにESGを組み込むESGインテグレーションは年金基金、運用会社が積極的に取り組んでいる。
 一方、海外では増えている「ネガティブ・スクリーニング」は非常に少ない

・資産クラス別にみると、「日本株」が3分の2で主流。

(関連記事)
日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が「第2回サステナブル投資残高アンケート調査」結果を公表

(参考)サステナブル投資の7分類
1.ESGインテグレーション
2.ポジティブ(ベスト・イン・クラス)スクリーニング
3.サステナビリティ・テーマ型投資
4.インパクト・コミュニティ投資
5.エンゲージメント・議決権行使
6.ネガティブ・スクリーニング
7.国際規範に基づくスクリーニング

欧米のサステナブル投資動向

グローバルのサステナブル投資残高は2,755兆円。(1ドル=120.37円換算)
 これは東証時価総額の5倍近くの巨大な規模。内訳は欧州が約1,450兆円、ついでアメリカが1,050兆円。

・投資資産に占めるサステナブル投資の比率は、欧州は53%に達している。もはやESG、サステナブル投資は欧米の投資の世界では主流。

欧州(Eurosif)と、米国(US SIF)のアンケートは、市場関係者のカバー率が高くデータの精度も高い。欧州では13ヶ国、278のアセットオーナーと運用会社が回答。

・手法別にみると、欧米は「ネガティブスクリーニング・除外」が最大(36%)。次いでESGインテグレーション(25%)、エンゲージメント・議決権行使(20%)、国際規範に基づくスクリーニング(15%)と続き、これでほぼ100%。

・ポジティブスクリーニングは全体の2%程度で非常に小さい。インパクト投資は1%程度でさらに小さいが、伸び率は大きい。

欧米では、サステナブル投資に占める個人投資家の割合が増加。2016年の調査で、個人投資家の割合は4分の1を占める。機関投資家に普及した後、個人投資家向け商品が増えるという流れ。

・資産クラス別にみると、欧州では債券の割合が株式よりも高い。グリーンボンドなどのSRI債の残高が大きい。

・欧州では、責任投資を進める理由として「フィデューシャリー・デューティー」が一番に挙がっている。顧客の要望に応え、顧客への責任を果たすため。ここが日本とは大きく違う。2番目に多いのが「リスクマネジメント」のため。一方で、阻害要因は「パフォーマンス」や「商品が少ない」との回答。

・米国でも、運用機関がESG要因を組み込む動機で一番多いのが「クライアント(投資家)のニーズ」。

日本と欧州・米国のサステナブル投資の違い

欧米はESG投資家の層が厚い。年金だけでなく、保険、大学、宗教団体、財団、ウェルスマネジメント・・・など多様。一方、日本は一部の年金基金と運用会社のみ。

欧米はネガティブスクリーニング含めて手法が多様。日本はエンゲージメント・議決権行使と、ESGインテグレーション以外の手法は限られる。

欧米は投資家が企業と社会課題の関係を重視していて、主体的な投資方針の一環にESGがきちんと位置付けられている。一方、日本は、「どうしてESGが必要か」明確に答えられる投資家が少ない。経済戦略と結びつけてESGが取り上げられ、GPIFがESGを言い出したから何となくやっている。欧米は手段としてのESGだが、日本は「ESGありき」になっている

・欧米は、E(環境)、S(ソーシャル)、G(ガバナンス)それぞれがバランスよく考慮されている。対して、日本は、ガバナンス重視の流れからESGが入ってきたこともあり、G(ガバナンス)以外への意識が低い。投資家も企業側も、企業にとってのEやSの課題を考えて共有していく必要がある。

欧米と比べて、日本はサステナブル投資の商品が限られる。そもそも債券市場が未成熟で商品も限定的。また、個人向けの投資信託なども非常に少ない。2000年代にはエコファンドが流行ったが、もっといろんな商品があっていい。

まとめ

・今後、ESGが日本でもメインストリームになり、通常の投資と責任投資の境界がなくなるためには、さまざまな社会課題について投資家と企業がよく議論し続ける必要がある。そうしないと形式的なESGで終わってしまう。CSRやIR部門だけでなく、経営者もESGの意義をきちんと理解することが必要。

・ESG投資家の関心事は、自分の資金がどう使われるか、よりよい社会のために資金を振り向けたい、ということ。
良い社会は良い企業によって作られる。企業と対話し、企業の取り組みを評価して、良い企業を選択していくのがESGの本質。投資家も企業も、銀行に資金の使い途を任せていた間接金融から、投資家が投資先を選ぶ直接金融への転換が求められる。

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欧米のサステナブル投資についての調査結果の解説がメインではありましたが、日本のESGの課題が欧米との対比を通じてとてもよく理解できました。

特に、投資家も運用会社も確固とした哲学や方針を持たないまま、GPIFが音頭を取ったから「とりあえずESG」になりつつあるとすれば危険です。

以前聞いた水口先生の講演でも同じことを感じました。

ただ、日本は投資家も企業も未成熟だから、と言っていても始まらないので、自分個人はできる枠内で積極的にサステナブルな投資を取り入れていきます。

自分の投資している中では、コモンズ30ファンドや朝日ライフSRI社会貢献ファンドなどは企業選定や対話のプロセスでESG的な運用手法を取っています。また、鎌倉投信の結い2101は、まさに「サステナブル」な社会を作ることを掲げています。

個人がお金を長期で託せる、質の高いサステナブル投資商品が日本でも増えてほしいと願っています。