元子ども兵の自立支援に取り組んでいる、認定NPO法人テラ・ルネッサンスの鬼丸昌也さんと、同じウガンダで現地の素材を活かしたバッグを作り日本に届けている、RICCI EVERYDAY代表の仲本千津さんとのトークセッションに行ってきました。
モデレーターは、お二人をつなげた、コモンズ投信の渋澤健さんです。
コモンズ投信の受益者であり、かつテラ・ルネッサンスにも関わっている自分としては、即参加!を決めました。
6月17日 「プロジェクト共創」~ウガンダへ希望と尊厳を、日本から
●RICCI EVERYDAY 仲本千津さん
RICCI EVERYDAYの創業者、仲本千津さんは、ウガンダの首都カンパラで、現地のカラフルなアフリカン・プリントの生地を使ったバッグを製作、日本で販売しています。
ウガンダ発アフリカン・プリントのバッグを日本へ
一橋の大学院でアフリカ政治を学び、銀行に就職。その後、農業NGOで住んだウガンダでアフリカン・プリントに出会い、その魅力を伝えようと、2015年にお母さんの律枝さんとRICCI EVERYDAYを創業しました。
アフリカのエネルギーを伝える鮮やかな色彩とデザイン、社会性の高いブランドコンセプトが共感を呼び、メディアの露出も増えています。「日本Africa企業支援イニシアチブ」の最優秀賞も受賞しました。
ウガンダは、もともとテーラーリング(仕立て)が盛んで、隣国コンゴなどから入ってきたアフリカンファブリックが豊富に流通しています。しかし、縫製技術の問題で、せっかくの素材を活かせていません。仲本さんは、優れた品質、デザインの商品を作れば、日本や世界でも十分に売れるはずと考えました。
社会性と経済性を持続的に両立させる
仲本さんのビジネスの目標は、単にアフリカの魅力を伝えることだけではありません。
カンパラの直営工房では、シングルマザーなど社会的に疎外された立場にいる人達を雇用し、技術を習得させ、生活水準の向上と自立を支援しています。今後は年金など福利厚生制度もつくっていきたいとのこと。
商品づくりの面では、大量生産ではなく、女性達の丁寧な「ハンドメイド」にこだわっています。そもそも、アフリカ布は色も模様も全部異なり、一点モノに近いんだそうです。
また、持続可能なものづくりのため、製造過程の端切れを裏地にアップサイクルしたりと環境配慮にもこだわります。
仲本さんの「従業員に優しい経営」「サステナブルな経営」「生産者の顔がみえるものづくり」といった理念は、まさにソーシャルなビジネスそのものです。
受け継がれていく理念
しかし、社会性と経済性の両立は簡単なことではありません。
イチオシの4wayバッグ(Akello Bag)を見せてもらいました。ここまでの品質のものを、ウガンダで作り、この価格(10,800円)で売れるまでには、並大抵でない苦労があったはずです。工房を作ってわずか2年で、日本のデパートが取り扱うようになったのは凄いことです。
仲本さんは、ファッション業界の経験がないのに、どうして起業できたのかお聞きしたところ、エチオピアでシープスキンのバッグを作っているandu ametの鮫島弘子さんのところでプロボノをしていたそうです。その鮫島さんは、白木夏子さんのHASUNAでプロボノをされていました。理念はこうやって受け継がれていくと感じました。
【関連記事】
(昨年のフェアトレード・コンシェルジュ講座での鮫島さんの講演)
・フェアトレード・コンシェルジュ講座(第4回・andu amet 鮫島弘子さん)
(お江戸百年塾でのHASUNA・白木さんの講演)
・HASUNA 白木夏子さん講演(お江戸百年塾2015 #6)
●テラ・ルネッサンス 鬼丸昌也さん
後半は、認定NPO法人テラ・ルネッサンスの鬼丸昌也さんから、アフリカの紛争と子ども兵の問題と、元子ども兵の社会復帰支援事業について。
鬼丸さんの話は毎回新たな発見があります。そして、鬼丸さんの伝える力にはいつも心を打たれます。
アフリカの紛争と私たちのつながり
子ども兵が世界中で生まれるのには、子どもが素直で洗脳しやすく従順な兵士になりやすいことと、AK-47に代表される武器の小型化という直接的な原因だけでなく、先進国の私たちとの関係があります。
すなわち、小型武器を生産し、途上国に流しているのは先進国であり、アフリカの紛争の一因となっている資源(原油、ダイアモンド、レアメタル・・)の恩恵に預かっているのも私たちです。
鬼丸さんはこう語ります。
自分たちの生活の中に、ささやかな原因の一端があると気づくこと。他人ごとではなく自分ごととして、できることから少しでも行動を起こすこと。
「私たちは微力ではあるが、無力ではない」
数年前に鬼丸さんの話を初めて聞いた時から、強烈にインプットされたフレーズです。
しかし、自分の生活に不条理な紛争や子ども兵の問題の原因があるのは、ある意味希望です。
事実を知れば、お金の使い方(消費や投資行動)を見直すこともできます。一人一人の微力が集まれば、まさに「滴が大河に」の如く大きな流れができるはずです。
オーナーシップを大事にする長期的な支援
ウガンダでは、元子ども兵の若者に対して、自立のための木工や洋裁などの能力向上支援活動を軸に、基本的なBHN支援や、心理社会支援(カウンセリング)などの活動を行っています。
仕事を通じてお金を稼ぎ、他人の役に立つことを通じて、収入の向上という経済的な自立だけでなく、コミュニティの中で周囲の人たちとの関係を構築することができ、自尊心が回復していきます。他人から認めてもらえる、多様な依存先を持てることが本当の自立につながります。
テラ・ルネッサンスの支援は、定型的、一方的な援助ではなくて、ひとりひとりの自主性を尊重した長期的な伴走です。それだけ手間もお金もかかりますが、あるべきモデルだと思いますし、とても共感する部分です。
非営利とソーシャルビジネスの連携
RICCI EVERYDAYの仲本さんとは、例えばテラ・ルネッサンスの施設で洋裁を学んだ女性を雇用するなど、連携の可能性も話題に上りました。仲本さんは、グルにあるテラルネの施設を訪問して、現地事務所長で、元々テーラーだったジミーさんと会って意気投合したそうです。
鬼丸さんによると、日本はNPO/NGOと、ソーシャルビジネスの間が分断されてしまっています。セクターを超えて一つの社会課題解決を目指すコレクティブ・インパクトという考え方がありますが、テラルネのような非営利部門と、仲本さんのようなビジネスが、それぞれの強みを生かして連携すれば、大きな力につながります。ウガンダでのコラボ実現を楽しみにしたいと思います。
●所感
RICCI EVERYDAYのようなソーシャルな企業、テラ・ルネッサンスのようなNPOの活動が多くの人に認知され、商品の購入や寄付など具体的なアクションにつながっていくことが理想です。
一方、最後の渋澤さんとのトークでも話題に上りましたが、関心を持ってもらうことはできても、なかなかアクションにつながらない難しさもあります。そもそもこういうイベントに来ない人にどう働きかけるか、という課題もあります。
鬼丸さんは、「支援を通して実は支援する側もギフトをもらっている」と言っていました。
自分も大事にしている共感や応援に基づく投資、あるいは寄付も、まさにそうです。利他のためという高潔なものではなく、自分が楽しく、うれしいからこそやっています。
この部分が伝われば、きっと投資の世界でも消費の世界でも、メインストリームが徐々に変わっていくと思います。私も微力ですが発信していきます。