セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

信用を超える「共感」の時代へ(新井和宏×池内計司×橋本卓典 「金融排除」刊行記念トーク at IKEUCHI ORGANIC東京ストア)

「金融排除」を書いた共同通信の橋本卓典さん、IKEUCH ORGANICの池内計司さん、そして鎌倉投信の新井和宏さんという豪華な3人のセッションに参加しました。

鎌倉投信の受益者であり、IKUECHIのファンでもあるので、楽しみにしていたイベント。「金融排除」の中では、排除を乗り越えて再生した企業としてIKEUCHI ORGANICが、排除の論理ではない新しい金融として鎌倉投信が取り上げられています。

f:id:shimo1974:20180518220541j:plain

金融排除とは

金融排除とは、「事業価値がある会社なのに、担保や信用力がないことを理由に融資しない」こと。もともとは、海外で、例えば「黒人には口座を作らせない」というような金融差別を指していた言葉ですが、金融緩和しても本当に資金が必要な会社にお金が渡らないのは「日本型金融排除」のせいではないか、と金融庁が2016年に指摘しました。

もっと分かりやすく、「シングルマザーには住宅ローンを貸さない」という銀行があったとすれば、これも金融排除です。英語では "Financial exclusion" ですが、反対の言葉は金融包摂="Financial inclusion" ですね。橋本さんは、このような金融排除が起こるのは、自分も相手も地域の一員であるという「共感力の欠如」のせいだと指摘します。この「共感」こそが今回のキーワードでした。

本当の事業価値を理解できない銀行

IKEUCHI ORGANICは、池内タオル時代の2003年に、大口取引先の倒産のあおりで民事再生を申請し、その結果、10年にも及ぶ厳しい金融排除を経験しました。本の中では、苛烈な銀行とのやり取りが記されています。

しかし、その経験を糧に、突き抜けるほどの徹底した環境とオーガニックへのこだわりと、独自ブランド化によって、「タオル」という商品の価値を変え、多くのファンが愛する会社に生まれ変わりました。

従来の金融の世界では、一回法的整理を経た会社は、直接その会社の事業のせいでなくても「危ない会社」とのレッテルが貼られてしまいます。過去のことしか見ずに、将来につながる事業価値=チャンスを見ようとしないからです。過去の数字以外のものを見る力がない、あるいは見ようとしていない、と橋本さんは指摘します。

ビートルズとすらコラボできる会社に、たしかな事業価値があると言えないのですか?」と。

IKEUCHI ORGANIC のコラボレーション『The Beatles』50 周年記念タオル地タ | THE BEATLES STORE

最近、池内さんは、身内ではない阿部さんに社長を引き継ぎました。従来の金融機関の常識では、「息子に継がせないなら貸せない」となるそうです。銀行が事業や人そのものを見ずに個人保証を重視する証左のエピソードです。

f:id:shimo1974:20180518220612j:plain

IKUECHI ORGANICも鎌倉投信も「共感」に根差している

池内さんは、会社が民事再生となったとき、全国の多くの顧客から「タオルを何枚買えば会社は復活できますか」と多くの励ましのメッセージをもらいました。その顧客の声を聞いて「これだけで十分再起は可能」と思えたそうです。

新井さんは、かつて民事再生で新聞に載った池内タオルが、今やSDGsを実践する企業として全国紙のトップを飾った、と感慨深げでした。

「風で織るタオル」、環境も品質も 取引先倒産が転機に

鎌倉投信も、投資先であるいい会社への「共感」をファンドマネージャーが語り、その共感を投資家である受益者が共有しています。
橋本さんは、受益者総会を引き合いに出しました。
投資信託なら運用報告書を読めばいい。何故わざわざ全国から集まり、しかもボランティアまでするのか? それは共感があるからでしょう。

新井さんは共感についてこう語りました。
会社を選ぶときは、この会社がうちの投資先になったらお客さんが喜ぶだろうな、という気持ち。
自分はお客様からお金を預かっているが、IKEUCHIのタオルを自分でつくることはできない。自分のかわりに作ってほしいから投資する。

ファンや取引先など会社を取り巻く人々の「共感」は、P/LやB/Sに表れなくても会社の価値をかたちづくる「資産」=見えない価値です。数字ばかりで実体を見ようとしない金融機関は生き残れない、と橋本さんは指摘します。

本当に取引先の企業に心底寄り添えるか。お金を貸すだけではなく、それ以上の貢献ができるか。それが金融機関に求められます。

共感を呼ぶ企業が選ばれる時代

金融やものづくり、メディアに限らず、すべての企業が「共感」の文脈で自分たちの仕事を語れるかが問われています。少子高齢化&人手不足、副業があたり前の時代、「共感」を持てる会社にいい人材は集まるからです。

橋本さんは、IKEUCHIは「タオル」を作っているのではなく、「共感」を作っていると表現しました。商品でなくストーリーを語れ、と言うは易し、一見共感に働きかけているようなうわべのマーケティングではなく、本物の共感を生むストーリーを語れる会社は実は少ないのではないでしょうか。

信用を超える共感へ

金融はもともと「信用」に根差した仕組みです。しかし、橋本さんは「信用」と「共感」は違うと指摘します。

信用は1対1の「約束をきちんと守れ」という契約関係ですが、共感は「相手のために何かできないか」と思う気持ちであり、例えば池内さん、橋本さん、新井さんの二等辺三角形のような関係性です。

そして、信用はあくまで等価交換(金利は付きます)なのに対して、共感は、100円頂いたら100円以上のものを進んで返すという非等価交換です。例えば、日本の田舎では海の幸を頂いたら山の幸を倍返しするような習慣があり、むしろ人間の歴史ではこのような関係性の方が長いとのこと。日本独自の「お世話様」「お互い様」「恩返し」の文化と言えるかもしれません。

共感は、信頼関係と価値観の共有に基づいているので、「信用」の世界で前提となる「相手への疑い」を持つ必要性がありません。結果的に取引のコストも大きく下がります。経済社会のベースが信用から共感へと移行するのはその点で必然かもしれません。

自分も、投資を続けている中で、「信用」から「共感」に軸がシフトしてきた気がします。日々の消費行動の中でも、気づかずに「共感」の要素が増えているかもしれません。価格がどうとか利回りがどうではなく、自分の好きな人、信頼できる人の共感できるストーリーが詰まったモノや会社にお金を使う、あるいは託すことができるのは幸せなことです。

橋本さんが、鎌倉投信とIKEUCHI ORGANICのことを熱く語ってくれて、まさに共感し、うれしくなった夜でした。本にサインも頂きました。

金融排除 地銀・信金信組が口を閉ざす不都合な真実 (幻冬舎新書)
橋本 卓典
幻冬舎 (2018-01-30)
売り上げランキング: 1,665

【関連記事】

グラミン日本準備機構のワークショップ(4/21・東京)に参加しました

鎌倉投信(結い2101)運用報告会(2018年4月)

新・贈与論-お金との付き合い方で社会が変わる(林 公則)【読了メモ】

IKEUCHI ORGANIC新社長 阿部哲也さん×新井和宏さん(鎌倉投信・いい会社訪問)