いい会社をとことん選び抜いて、長期で投資する「厳選投資」の意義と有効性を説いた本です。 コモンズ投信の渋澤さん、伊井さん、NVICの奥野さん、みさき投資の中神さんなど、日本を代表する「厳選投資」な人達が執筆しています。
2013年に初版が出版され、今年一部内容を追加した「増補版」が再刊されました。
企業価値はその企業が将来生み出すキャッシュフローによって決まります。キャッシュフローを持続的に生み出し続ける企業を厳選して割安で買い、長期で保有し続ければ、市場より高いリターンが得られる。これが厳選投資の基本的な考え方です。
この本でいう「厳選投資」の投資先は20~30社、多くても50社程度です。私の保有しているコモンズ30ファンド、NVICの「おおぶね」シリーズ、他にもスパークスの厳選投資などはまさにこのタイプですが、日本ではこのようなアクティブファンドはまだ少数派です。
この本は、ただ単にインデックス投資がダメでアクティブ運用が有効だと言っているのではありません。大事なのは「市場」ではなく「企業」を買う、ことです。
第3章に、「相対リターン型投資」と「絶対リターン型投資」という解説があります。
「相対リターン型投資」は、ベンチマークがあり、ベンチマーク+αを狙うようなアクティブ運用です。このタイプには、ベンチマークに大負けしないよう、一定の指数をベースに、一部オーバーウェイト、アンダーウェイトしてポートフォリオを組む「なんちゃってアクティブファンド」が少なくありません。ベンチマークを意識しつつ100社~数百社に分散投資するので、結局は「市場」を買っているのに過ぎません。
一方、「企業」を買う厳選投資は、「絶対リターン型」のアクティブ運用です。有望な企業を徹底的に調査し、本質的な価値を見極めます。1社1社時間と手間をかけて多角的に調査分析し、確信度が十分高く、かつ割安な価格で投資するので、保有する企業数は自ずと少なくなります。厳選投資のアクティブファンドは、ベンチマークをそもそも意識しないので、アクティブシェア(ポートフォリオのベンチマークとの差異の度合い)が高い傾向があります。
このような「厳選投資」のアクティブ運用は、社会的な役割も大きいです。持続的に価値を生む企業に資金を供給し、資本効率の悪い企業には撤退を促すことによって、社会の資本配分を最適化します。また、エンゲージメントを通じて企業に伴走し、長期的に企業価値を向上させていく働きも担います。
キャッシュフローを生み価値を創出するのはマーケットではなく、あくまで個々の企業であり事業です。いくら低コストだからといって、資本コストを下回るリターンしか生み出さない企業群にいくら分散しても意味がありません。本書は、パッシブ運用大全盛の中で、「株式投資とは企業の価値を見極め、価値に投資することである」という基本に立ち返ることを訴えているように思います。
インデックス投資最強!と思っていた昔の自分に読ませたいです。
私としては、引き続き厳選投資を実践しているファンドに投資していきますが、個別企業を見る上でもとても参考になる本でした。