セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

投信協会の「すべての人に世界の成長を届ける研究会」(つみけん)報告書

投資信託協会が、こんなレポートを公表しました。

「すべての人に世界の成長を届ける研究会」の報告書の公表について - 投資信託協会

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国が「貯蓄から資産形成へ」を掲げ、つみたてNISAなどで投資を始める若い人も増えていますが、世間ではまだまだ「投資はギャンブル」というネガティブなイメージが主流です。普通の人の生活の一部に長期投資がある社会はまだまだ遠いです。

そんな状況を変えていくため、「すべての人に世界の成長を届ける研究会」(通称:つみけん)が、「長期・分散・積立」による資産形成を広く一般生活者に普及させるための課題と方策をまとめたのが本レポートです。

「2041年、資産形成をすべての人に ~5つのターゲットと15のアイデア~」とタイトルの付いた本報告書は2部構成です。
1部では、2041年(20年後) の「ありたい姿」を提示した上で、5つの数値目標と、16のモニタリング指標を設定しています。2部では、有識者の方々が各専門分野から15のアイディアを提言しています。

生活者、金融機関、制度面、マーケット要因からみた課題認識も的確ですし、数値目標も野心的でいいと思いました。100ページ以上あり、海外の事情も紹介されていて充実したレポートですが、私個人的には、特に「投資と社会とのつながり」の面から読み解いてみました。

まず、上位ビジョンである20年後(2041年)の資産形成の「ありたい姿」。

「“すべての”人が、少しずつ時間をかけて、投資を継続し将来のために備えることが、今この瞬間を大切に生きることに繋がる」と認識され、実践されている社会。

「“すべての”人にとって投資を継続することが社会への参画であり、持続可能な社会を創造することに貢献できる」と認識され、実践されている社会。

資産形成を個人に閉じたものとせず、社会とつながり、社会に参加するものと位置付けていること、「成長」を単なる利益成長ではなく、社会課題の解決や持続可能性の向上としていることは大事だと思います。また、お金の余裕のあるなしに関わらず、本来、このような資産形成は「すべての人」の生活の一部になるのが理想です。

2部の提言アイディアの中でも、大事な指摘があります。
まずは、投資の社会的意義について。

⻑期に資産形成をしていく上での⼤切な⼼構えは、「他の⼈が豊かになると、⾃分も豊かになる」という輪廻(りんね)的な考え⽅であると思います。親が⼦供に投資をする、企業が社員や新製品開発に投資をする、国が学校や病院や道路などに投資するなど、投資とは「投資→成⻑→豊かさ」というサイクルに従っています。働くこと、ボランティアなどでの社会参加と同様に、皆さんのお⾦の社会参加は社会の成⻑や豊かさにとって必要不可欠なものです。
(インベスコ・アセット・マネジメント 加藤航介さん)

このような、投資が社会参加であり成長の循環であるという考え方は、まさに投資の本質であり、これからの金融教育の中でもきちんと取り入れてほしい視点です。

もう一つは、金融機関と生活者の間のつながりについて。

投資信託を⻑期で持つにはどうしたらよいか。個⼈の⽴場から⾒たら「持ち続けられる」投資信託を選ぶ。運⽤会社から⾒たら「⻑く保有してもらえる投信」にすることが⼤事だ。
そのためには運用会社は投資先との対話だけではなく、受益者との”つながり”を大事にする必要があるのではないだろうか。具体的には、適切な情報開⽰(⽬論⾒書、運⽤報告書、⽉次レポート)と受益者との継続的な対話である。
(LIFE MAP合同会社 竹川美奈⼦さん)

これも、ある意味で資産形成を通じたコミュニティ形成であり、投資を長く続ける動機づけになるものです。金融商品の作り手や売り手が、生活者の社会参加や社会とのつながりを媒介する役割を果たすことが大切だと思います。ただし、中途半端な取り組みでは続きません。竹川さんの指摘のとおり、『受益者に「伝えよう」とする意思、持続的に実施する覚悟』があるかです。まだまだそういう会社は数えるほどだと思うので、金融業界全体に広がることが必要です。

 

運用会社、証券会社や銀行、金融庁など投資信託に関わる人達は、ぜひこの提言を参考に、真剣に自社のビジネスを長期視点で考えてほしいですね。また、これから社会に出る学生、できれば学校の先生にも読んで欲しいと思いました。

生活者のお金が社会に還元し、企業と社会の持続的な発展を支え、それが生活者の資産形成と豊かで充実した人生につながる。そんな循環が、こういった提言をきっかけに少しずつ広まってほしいです。

今後も研究会ではESG投資などのテーマを議論する予定とのことです。