セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

コモンズ投信 伊井哲朗さん × NVIC 奥野一成さんの長期投資トーク at SBI証券

お世話になっている2人のファンドマネージャー、コモンズ投信の伊井哲朗さんと、農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の奥野一成さんが、SBI証券さん主催のイベントで対談されました。

コモンズ30ファンドは5年以上前から、奥野さんの米国株式長期厳選ファンドは1年ちょっと積み立てています。

SBI証券では、ファンドマネージャーの考え方や人となりを「会ってみた!10社ファンドマネージャーに独占インタビュー!」などで積極的に紹介しています。今回は旧知の仲である伊井さんと奥野さんをお呼びしたリアルのイベント。真の長期投資を実践しているお二人の金言の数々でした。

以下、印象に残った内容です。
書き起こしではなく管理人の意訳も多いのでご了承ください。(敬称略)

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長期の「価値」に投資する
  • 株価は1日で大きく動くこともある。しかし、会社の価値=働く人たちが生み出してきたものがたった1日でそんなに変わるのか?(伊井)
  • 平成の30年間で日経平均は2割以上下がったが、時価総額が5倍以上に増えた会社も5%(64社)ある。AmazonはITバブルの頃高値から95%も下落したがその後2018年までに370倍に成長。
    コモンズ30保有銘柄のうち平成30年間で時価総額5倍以上の企業は8社ある。変化を乗り越えていける強い企業の価値に長期で投資できるかどうか。(伊井)

自分もまだまだ価格に惑わされがちです。価値に投資する、Patient Capitalismを実践したいです。

  • 投資が長期になるほど「納得感」が必要。なぜその企業に投資しているのか、どんな対話をしているのか、投資家には知ってもらいたい。
    だから運用レポートは嫌と言うほど詳しく伝える。明日リーマンショック級の大暴落が来るかもしれない。本当にいい会社=価値を生む会社と確信していればその時に買うことができる。(奥野)

「納得感」とは、コモンズ投信の渋澤さんがよく言う「手触り感」にも通じます。奥野さんのファンドの運用レポートは本当に素晴らしいです。

運用はものづくり
  • 運用はものづくりと同じ。投資先についての自分たちなりの仮説を精巧に組み合わせて顧客に届ける。そしてその仮説が正しいか、業績や対話を通じて常にチェックし検証する。メーカーにアフターフォローがあるように、検証結果を投資家に対して分かりやすく誠実にレポーティングする。運用とはこの仮説と検証の繰り返し。(奥野)
  • 海外では運用会社のことを manufacturerと言ったりする。ファンドを通じて作り手の思いを伝えたい。仮説をチューンナップするためには投資先の経営者、社員、取引先、ファンドの受益者・・・といった幅広い対話が大事。(伊井)

運用はものづくり、という考え方には共感しました。ある意味職人の仕事であり、飽くなき改善のプロセスでもあります。

価値を生むものに投資しているか?
  • コストが安いからインデックスがいいのではなく、インデックスにどんな会社が含まれているのかが大事。例えば同じ指数でも、TOPIXとS&P500を比較したらどちらが価値を生んでいるかは歴然。どんなに手数料が安くてもそこに含まれる企業がダメならダメ。
    大事なのはインデックスかアクティブかではない。価値を生むものに投資しているのかどうか。(奥野)

何度聞いても重要だと思います。株式市場と別個の独立したものとして投資信託が存在するわけではなく、結局はそこに入っている企業の価値の集合体なわけですから。また、自分もアクティブvsインデックスという文脈でつい考えてしまうのでそこは反省しないといけません。

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労働者+投資家として資本主義に参加する
  • 資本主義への参加の仕方は労働者としてだけではない。投資家として企業のオーナーになることもできる。ディズニーを持てばミッキーが、Amazonを持てばベゾスが自分の代わりに働いてくれる。人生100年時代にはそういう発想も必要。(奥野)
  • 企業が持続的に成長するのは、その企業が社会の問題を解決し続けているから。成長する会社への長期投資は結果的に社会をよくするし、投資家もリターンを得られる。これが資本主義の根幹だし、いい会社を自分で選ぶことは投資家としての責任。(奥野)

株式投資は株券の売買=マネーゲームではありません。投資とは企業のオーナーとして資本主義に参加すること、その結果、社会がよくなり自分も豊かになる、というとてもベーシックで本質的な考え方です。

長期投資家は経営者の時間軸で考える
  • 日本のアナリストはIPOした企業に「いつ黒字化しますか?」ばかり聞く。一方で欧米の長期投資家は「このお金を将来のために投資してくれ」と言う。長期投資家は経営者と同じ時間軸で考えることができる。日本の経営者も、もっと長期目線の投資家が増えてほしいと考えている。(伊井)
  • 自分はアクティビストではない。株主の取り分を増やせ、配当上げろ、というのは対話ではない。企業価値全体を大きくすれば、みんながハッピーになる。そのための対話。(奥野)

目先の業績ばかり見る短期投資家と異なり、長期投資家と経営者は対立関係ではなく同じベクトルを向きます。それは長い目で企業価値を大きくしていくためのパートナーシップを生みます。それが「持続的な成長」やスチュワードシップ、ガバナンスの話につながるのでしょう。長期投資家にとって、ESGなんて言わなくてもESGは当たり前、という話も全面同意です。

 

参加されたrennyさん、ろくすけさんも記事にされています。ぜひご覧ください。 


証券会社のセミナーといえばどうしても商品の宣伝メインになります。そんな中、SBI証券さんが最近力を入れている、運用会社の顔の見える企画は素晴らしいと思います。ネット証券も、手数料の安さや品ぞろえの多さだけでなく、こういったコンテンツで差別化してくれるといいですね。

それと、金融庁の人生100年時代のレポートの話が盛り上がっていますが、いくらNISAやiDeCoの啓蒙をしてもそれだけでは自助による資産形成なんて広まらないと思いますし、自助=自己責任というネガティブイメージにつながるだけです。

お金~投資~企業~社会という循環について、きちんと教育の場で伝えていければ、投資とふつうの人の生活がもっと前向きにリンクしていくだろうなあ、と感じました。大人だけでなく学生さんにも聞いてほしい話でした。