元・楽天IR部長で、現在はクラシコムなどの社外取締役を務める市川祐子さんの新著です。昨年9月に、コモンズ投信の記念イベントで市川さんのお話を直接聞く機会がありましたが、改めて読みました。
「新しい10年」をつくる全ての人たちへ贈る「ESG投資で激変!2030年会社員の未来」セミナー 9/28(水)にオンライン・オフラインで開催
企業で働く人の立場で書かれたESG本
ESG関連本がたくさんある中で本書が優れているのは、普通の会社員から見たESGの位置づけが理解できることです。企業で働く人にとって、ESG投資がどんな意味を持つのか、なぜ企業はESGを考慮する必要があるのか、分かりやすく教えてくれます。
・ESG投資は慈善ではなく、利益追求の観点から合理的。
・株主だけではなく、ステークホルダー全ての利益に配慮しなければ、会社は長期的に持続できない。(道徳と経済、論語と算盤)
・ESGは成長率を上げる(またはリスクを下げる)ことによって企業価値を高める。
・社会と、株主の両方にとっていいこと=共通善が最も取り組むべきESG。
・ESGは「非財務」ではなく「未財務」or「末(すえ)財務」。長い目で財務価値となるもの。
・ダイバーシティ(多様な価値観)がイノベーションを生む。
・ビジネスでの人権配慮は「かわいそう」だからではなく企業価値を損なわないため。
このような、ESGの考え方の基本が平易な文章と図表でスムーズに理解できます。
特に、全体を通して出てくる、会社=航海に出る船、株主=陸で待つ船主、経営者=船長、社員=乗組員とする例えが秀逸でした。株式会社の仕組み、投資家と企業のエンゲージメント、ガバナンスからスチュワードシップコードに至るまで、この船の例えですんなり頭に入りました。
企業も個人もパーパスの時代
もう一つの特長は、「パーパス」にスポットを当てている点です。
パーパスとは、「なぜ企業がその事業に取り組むのか」「何のために会社が存在しているのか」という根本的な存在意義です。
株主と株主以外のステークホルダー(従業員、取引先、顧客)が同じ価値観を共有すれば、その会社は長く続き、発展することができます。その共有すべき価値観が「パーパス」だと思います。確固たるパーパスがあれば、環境が変わっても、会社に関わる人達はブレずに同じ方向を向いて進んでいけます。
働く人から見ると、働き甲斐や幸せを感じるには「会社のパーパスと個人のパーパスが一致しているか」「会社のパーパスに共感して働けるか」がとても大事です。そういう会社は、パーパスが現場まで浸透しているので強いし、投資家からも選ばれます。ただ、その前提として、自分のパーパスが何か、はっきりしていないといけません。
この本の第6章はこのように締めくくられています。
「あなたのパーパスは何ですか? これからどうしますか? 熱意をもって取り組める何かに飛び込んでみますか?」
企業で働く人目線で、ESGについて深く理解するとともに、自分の今いる会社がどこを目指しているのか、自分はどういうキャリアを積んでいきたいのか、見つめ直すことができる良書です。20代30代の企業人の方々、最近会社がESG、ESGって言うけど何なの?と思っている方々に読んでいただきたいです。