JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)の会員向けセミナーで、「ESG投資 新しい資本主義のかたち」の著者、水口剛さんと大和総研の河口真理子さんの話を聞きました。お二人はJSIFの共同代表理事もされています。
ESG投資の大論客お二人から、こんな論点を中心に、ホンネのESGトークがたくさん聴けました。(オフレコもあり一部です)
・非財務要素と財務要素の関係は時間軸で考える。例えば「気候変動」という課題は短期的には業績に関係ないが、長期的には財務要因になっていく。企業を取り巻く課題を長期的にとらえる(リスクや機会を先取りする)のがESG投資ともいえる。
・ダイベストメント(投資撤退)かエンゲージメント(対話)か。例えばエネルギー問題は、石炭火力からのダイベストメントのみでは解決しない。責任ある投資家として企業とともに長期的なエネルギー移行を考えていくエンゲージメントの必要性。
・「モノ言う株主」とESGのエンゲージメントの違い。短期的に企業価値を上げてEXITする目的のアクティビストではなく、E(環境)やS(社会)も含めた長期的な時間軸での対話がESGでのエンゲージメント。その先にあるのは「自然資本」や「社会関係資本」まで含めた資本概念の拡張。
→ 例えばアムンディのエンゲージメントが、先進事例として紹介されています。テーマごとに、個別企業を挙げて具体的にどんな評価をしたのか、かなり詳しいです。「児童労働とタバコ産業」というテーマで、日本のJTも出てきます。(リンク先PDFのp39)
The Engagement Report 2016 is online | Amundi, a leading asset manager
・パッシブなESG投資、GPIFのESGインデックスの功罪について。企業がESG指数に採用されるべく継続的に頑張るなら意味はあるが。。。
・企業側に求められる姿勢について。投資家の要望に振り回されず、一つ一つのESG課題には時間がかかることをしっかり伝え、投資家と対等に対話していくこと。
などなど。
GPIFのESG投資開始で、最近は「ESG」が話題によく上ります。機関投資家からお金を預かる運用会社も、いやでもESGに取り組まざるを得なくなってきました。
ただ、運用会社の中には、「ESGインテグレーションに取り組んでいます」と言いつつ、形式的にESGチームを置いただけで、従来のアクティブ運用とやっていることは実質的に変わらない「なんちゃってESG」も多いとのこと。
この背景の一つに、ESGの手法が昔のSRI的なスクリーニングから、より広範なESGインテグレーションにシフトしてきたため、外形的には普通のアクティブ運用と区別がつきにくく、結局は運用者の意図や理解度によるところが大きいとの指摘がありました。
そんな状況の中、水口さんは、本場ヨーロッパの「責任投資」を見てきた立場から、「本来のESG投資」を理解してもらいたいと本書を書かれました。運用会社やプロの方にぜひ一読してもらいたいです。
最近は、個人でも投資できる投信でも「ESG」と銘打つものが出てきています。他人からお金を預かるわけではなく、自分の価値観を反映できる個人投資家こそ、責任投資の考え方や、環境や社会への視点が大事と思い、自分もそういった投資も積極的にしています。
実際にESG関連のファンドを見ていても、運用者が、国連の責任投資原則に始まるESGの精神を本当に理解した上でESGに取り組んでいるのか、なんちゃってESGでないのか、なかなか難しいのですが、見極めないといけないなと感じます。
今回の本では、ESG投資が何のために生まれ、どうして必要なのか、基本から最新のテーマまでカバーされています。関心のある方はぜひご覧ください。
【過去記事】
・河口真理子さんの本。いい影響を受けました。
【書評】「ソーシャルファイナンスの教科書」(河口真理子著)
・水口先生の前回のJSIFセミナーの模様。
ESG投資か、責任投資か?<高崎経済大学 水口剛さん・日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)セミナー>