セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

鎌倉投信の第8回「結い2101」受益者総会(その1)

今年も鎌倉投信の受益者総会に参加してきました。会場は2年ぶりの京都です。

第8回のテーマは<「匠」~世界が必要とする日本のこだわり~>
「匠」は、「人」「共生」とともに、鎌倉投信が「いい会社」を選ぶ際の3つのテーマのひとつです。日本のものづくりを支えるグローバルニッチな企業がたくさん紹介されました。

例年通り、午前中の企業展示に始まり、午後は結い2101の運用報告、投資先企業の経営者の講演、対談、パネルディスカッションという流れでした。

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昨年、一昨年と運営ボランティアで参加しましたが、今年はフル聴講したので、結構頑張ってメモしました。

(記事その1)→本記事です。

  • 開会挨拶(鎌倉投信・鎌田恭幸さん)
  • 結い2101 決算・運用報告(鎌倉投信・新井和宏さん)
  • 投資先”いい会社”の経営者講演(堀場製作所・代表取締役会長兼社長・堀場厚さん)

(記事その2)→こちらです。

  • 投資先"いい会社"の経営者対談(ハーツユナイテッドグループ・代表取締役社長 CEO・玉塚元一さん × 鎌田さん)
  • パネルディスカッション(和井田製作所 × リオン × アドバネクス ) 

開会挨拶(鎌倉投信・鎌田恭幸さん)

鎌田さんから総会開催にあたってのスピーチ。前回に続きWeb中継もされました。

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- リーマンショック後の2010年3月、純資産3億円で始まった結い2101。最初は「いい会社」への長期投資なんてきれいごとだ、と相手にされなかったが、まる7年、受益者、投資先企業のおかげでようやく形になってきた。純資産総額は300億近く、受益者は約2万人近くまで大きくなることができた。
小さくても信頼に根差した金融、顔の見えるお金の循環をつくるという、1回目の受益者総会で伝えた思いは今も全く変わっていない

- 「いい会社をふやしましょう」の「いい会社」は、本業を通じて社会に貢献できる会社であり、会社に関わる人全てが幸せになれる会社
その中でも、今回のテーマは「匠」。ものづくりは、製品が「目に見える」ので、嘘偽りは絶対に通用しない世界。他者と違うことをこだわりを持ってやり続けている会社を見てほしい。

結い2101 第8期決算・運用報告(鎌倉投信・新井和宏さん)

続いて、ファンドの運用報告でした。いつも通り運用責任者の新井さんから。

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以下は、第8期(2016年7月19日~2017年7月19日)のデータです。

純資産総額 239億円 → 286億円(+20%)
 足元は290億円を超え、いよいよ300億円が見えてきました。 

総顧客数 16,098人 → 17,247人(+7%)
 うち積立(定期定額購入)は 9,820人
「投信まとなび」で確認すると、去年の8月、12月あたりに資金流出も見られるものの、傾向としては純流入です。

投資先企業数 61社(現在は62社、うち非開示1社)
 新規組入企業:ほぼ日アドバネクス
 全売却企業:サクセスホールディングス

・ヤマトHDの残業代不払い問題について
 4月以降、ファンドとして追加の買付を止めています。不祥事やネガティブな事態が生じた場合に、どう対応できるかがいい会社であるかを決めます。現場の社員の納得の行くような解決ができるのか、会社の対応を見極めているところです。

サクセスHDの全売却、ヤマトHDへの対応については、5月の鎌倉本社での運用報告会でも聞きました。

目標投資比率 1.3%(約3.7億円)
 結い2101は時価総額や企業規模に関わらず、全て「いい会社」という考え方から、等金額ポートフォリオを原則とします。目標比率をベースに、日々ウェイトコントロールしています。

株式比率
 前回決算時の約52%から、約60%に株式ウェイトが増加しました。現在の値動き(基準価額の変動率)は6%前後で、目標リスク10%より低いため、株式比率を高めています。
現金比率の多いファンドなので、マイナス金利の影響を受けやすくなります。現在は非上場企業の社債の利払いとマイナス金利分がほぼ相殺する程度で、影響は大きくありません。

リスク管理
 相場が好調なので、時価(基準価額)と、投資先のPBR1倍ベースの基準価額との乖離率が拡大しています。急激な基準価額下落が起こる場合に備え、乖離率が20%を超えた部分について、プットオプションなどによるヘッジも検討しています。(あくまで研究段階で、導入するかは未定。) 確か2年前の運用報告会でも、同様の話がありました。

リターンその他
 TOPIX 21.8%に対して、13.9%でした。現金比率が多いので、上昇局面ではごく自然な結果です。第8期は分配はありません。売買回転率は約43%と低位です(第7期は57%)。

「匠」の基準について
 
鎌倉投信の掲げる3つの「いい会社」の視点のうち、今回の総会のテーマ「匠」について。「日本らしい細やかさ」「ニッチさ」「製販一貫体制」そして「開発力」というキーワードが示されました。
製販一貫という点では、工場を持たないファブレス企業のような会社は除外されます。また、「開発力」とは、特許依存ではなく、常に新しいものをアウトプットし続けられる力です。

その他、投資先企業との日々の対話の取り組みなども紹介されました。

プチサプライズで、京都に本社があり、第3回の受益者総会にも登壇された、ユーシン精機の小谷社長がご挨拶されました。

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堀場製作所・代表取締役会長兼社長・堀場厚さん講演

投資先企業からの最初の登壇者は、堀場製作所の代表取締役会長兼社長、堀場厚さんでした。

堀場製作所について。

堀場製作所は、自動車のエンジン排ガス測定機器や血球計数装置などを作る計測機器の総合メーカーです。特にエンジン排ガス測定装置は世界シェア約8割と、圧倒的な業界トップです。また、「はかる」を軸に事業のバランスをとり、「自動車」、「環境」、「医療」、「半導体」などの幅広い分野で技術発展に貢献する製品を作っています。社是は「おもしろおかしく」で、社員一人ひとりの仕事へのやりがいを大切にしている、いい会社です。
鎌倉投信「THE COMPANY FINDER」より)

堀場厚さんは、堀場製作所の創業者でカリスマ経営者と言われる故・堀場雅夫氏の長男です。話術に長け、聴衆をつかむのが本当にうまい方で、ちょいちょい入れてくるボケやオチも絶妙でした。グローバル展開の話を中心に話題は多岐にわたっています。

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- VWのディーゼル不正問題で、堀場の排ガス測定器が使われ、「不正を暴いた」日本企業とメディアに騒がれた。しかし、「暴いた」のではなく、堀場は「分析した」だけ!(これがつかみのトークでした)

- 排ガス分析のための機械を作っているのに、社長の自分はテスラに乗っている(堀場社長は大のクルマ好き)。でも実はこれがポイントで、自分の知っている世界の次の世代を常に見ておく必要があるから。

- イギリスのMIRA社を2015年に160億円で買収した。MIRA社は、広大なテストコースを持ち、アストンマーチン、ジャガーなど名だたるメーカーの車両試験の仕事を受けていた企業。先方から、堀場の参加に入りたいという話があった。

- 160億という多額の投資を決めたのは、MIRA社の600名もの優秀な技術者たち。電気自動車、自動運転などこれから必要な領域で、日本にはない技術を彼らは持っていた。
一人の優秀な技術者を育てるのに1億円かかる。そう考えれば、600人で160億は「買い」だった。

- そうしたら、買収後すぐにVWの排ガス分析の仕事でMIRAのテストコースが必要になった。「殿ご乱心」ではなく「先見の明」になった(笑)。ただし、大きな決断をするには、160億をキャッシュで買える「財務力」が実は不可欠。銀行借り入れではこのリスクは取れない。

- MIRA社だけでなく、過去にはフランスやドイツの企業を買収している。グループ7,000人のうち6割の4,200人が外国人(欧米が多い)。一般的に日本企業は、労働力を求めて海外の企業を買収するが、堀場は、日本にない技術や研究開発といったコアな機能を海外に求めているのが大きな違い

- 従来の日本企業は、日本の本社が強く、技術で海外の法人を抑えつけようとする。しかし、堀場は、自分の持っていない技術そのものを海外に求めているので、そういうマネジメントはできない。では何か?「人徳」でマネージする(笑)。
→ これは冗談ではなくて、HORIBAの先代からの社是「おもしろ、おかしく」=”Joy and Fun” という企業理念が、国境を超えて浸透しているからこそ。

- 「フランス人をよくmanageできるな」とよく言われる。「フランス人」と「京都人」の共通点は何か?=「よそ者に嫌われること」(笑)。
しかし、逆に言えば、自分たちの文化や価値観を大事にする、安易に迎合しない、ということ。だからこそ、京都には豊かな文化やこころが受け継がれていて、そこが外国からも尊敬されるのだろう。

- 自動車はナショナリズムの強い産業なので、現地のスタッフを育てる、現地化することも大事。現地のスタッフが現地の言葉で対応することで信頼が得られる。割烹を英語で注文したらちょっと違うなというのと同じ。

- 信頼という点では、例えば「マスフローコントローラー」という主力製品がある。価格は他社よりも高いが、何かあったら現地の開発者が駆けつけて対応するというアフターサポートが評価されて、世界シェアNo.1になっている。

- 若い頃に、アメリカでサービスマンをやっていて感じたアメリカと日本の大きな違いは、「アメリカは実績は関係なく『いいもの』を採用する」が、「日本は実績がないと採用しない」こと。この実績偏重の考え方が、日本がうまく言っていない大きな原因の一つと思っている。

- 「悪いときこそチャンス」。景気がいい時は、今までのやり方がうまくいっているので、新しいやり方を試そうとはしないが、景気が悪い時こそ、新しい機械を入れてもらえる。

- (アメリカで飛行機の免許も取ったが)飛行機の操縦から学んだこと。
機体が落ちている時は、機首を上げよう、減速しよう、としたくなるがそれではダメ(ストールしてしまう)。落ちているときこそ、勇気を出して下げ舵、フルスロットルで加速が必要。そうして機体に浮力が付いたら、そこで上げ舵を取ればいい。
経営に置き換えると、落ちる時こそ、より投資をすること。そうすると、また上がってきた時により大きく成長できる。だから、みんなが調子がいい時ではなく、景気が悪い時にこそ、その会社がいい会社かどうか判断できる。

<質疑応答>(敬称略)

(Q):海外も含めた従業員の「信頼」を得るために大事なことは?

堀場オープン&フェア」が、特に海外の人のロイヤリティーを高めるには重要。そして、経営者が社員に対して考え方を伝える一番分かりやすい方法は「人事」。人事は、会社をどういう方向にしようとしているのかを明確に示すメッセージとなる。

(Q):将来の自動車業界の姿をどう考えているか?

堀場「電動化」=100%電気自動車になるかのように思う人が多いが、そうではない。ハイブリッド、PHEV・・・といろいろある。都市部は電気自動車化が進むが、例えばアメリカのアリゾナやネバダでオール電気になったら死んでしまう(笑)。電気ステーションのキャパの問題もある。もちろん、ガソリンからEVの方向に進んでいるのは間違いないが、全部なくなる、ということはない。

 

以上、前半のメモでした。

後半は、ハーツユナイテッドグループの玉塚元一さんと鎌田さんの対談、投資先3社(和井田製作所、リオン、アドバネクス)の経営者によるパネルディスカッションの模様です。

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