9/26に開かれた、NVICの「おおぶね」年次総会第二部は、大手町の「アグベンチャーラボ」にて運用報告と懇親会でした。
(第一部のスリーエムジャパン見学の模様)
CIOの奥野さんより、NVICの運用哲学の再確認と、企業調査の具体例についての説明でした。
本ファンドの思想は「売る必要のない会社しか買わない」という言葉に集約されます。度々紹介していますが、NVICの長期投資の考え方は繰り返し伝えたいのでおさらいします。
オーナーシップとしての株式投資
NVICの運用哲学は、次の3つを満たす「構造的に強靭な企業」に長期で投資すること。
・付加価値の高い産業
「その会社って本当に世の中に必要?」という視点。
ex. ビザがなくなったらカード決済ができない、世の中が回らない・・・
・圧倒的な競合優位性
誰も今さら勝負しようと思えないほどの絶対的な参入障壁があるか。
ex. ディズニーとキャラクターで渡り合える会社は出てくる?
・長期的な潮流
人口動態など、社会の長期的な流れに乗っているか、成長がずっと続くのか?
※「AI」とか「自動運転」という投資テーマではない!
(交付目論見書より)
この3つを満たす会社は、社会の問題を持続的に解決し、その対価として営業利益を出し続け、長期的に株価は上がっていく。だから、一たびこういうビジネスを見つけてしまえば売る必要はない。
投資は株券の売買ではない。強い会社を見つけ、そのオーナーになってお金をはりつけておくこと(キャピタルアロケーション)。
当ファンドは27社に投資しているので、投資家はざっくり100ぐらいの事業のコングロマリットのオーナーになっているといえる。
運用は仮説と検証
企業訪問の際は、その会社のビジネスの構造や競合環境についてのNVICの仮説を詳細なディスカッションペーパーにあらかじめまとめ、議論する。普通のアナリストがテーブルに載せるであろう四半期の業績などは全く議論しない。
「構造的に強靭な企業」を構成する3つの要素を満たしているか、経営者と対話し、現場を見て、さらに競合企業への訪問、川上川下も分析して多角的に判断する。
そのようなプロセスを通じて、仮説を常に検証し、オーナーである受益者に対して、月次レターや総会の場を通じて詳しくレポートする。オーナーなのだから、自分の会社がどういう状況か当然知りたいはず。そして、「やっぱりこの会社は強い」と確信が持てれば、マーケットに左右されず、下がったら安心して買うことができる。
※具体的なケースとして、新規に投資したVarian社(放射線治療器メーカー)や、NIKEの競合分析(Adidas)の例が紹介されました。一度訪問して終わりではなく、投資後も対話を通じて検証を繰り返します。「そこまでやってくれたら安心」という運用をしています。アクティブファンドとはこうあるべき、と思います。
(参考)8月末現在の組入上位10社
価値を生むものに投資しているのか?
大事なのは「価値を生むものに投資しているのか?」。パッシブかアクティブかは関係ない。
TOPIXは多くが上場ゴールかゾンビ企業。ダメな会社が退出する代謝機能が働いていないため。一方、S&P500はいい会社が選別される仕組みがあり素晴らしいインデックス。
※こちらは9/22に京都で行われたブロガー座談会で示されたスライドです。
利益が積み上がった結果であるBPSと、それに連動したリターンの、日米インデックスの違いは歴然としています。
ただし、S&P500にも弱点がある。それは、超長期では確実に成長しているが、中期的には「バブル」が避けられないこと。
ITバブル時は「ドットコム」というだけで価値を無視して何でも買われた。その結果、S&P500は、間にクレジットバブル(リーマンショック)もあり、ITバブル時の高値を超えるのに結局12年もの時間を要した。
一方、当ファンドのポートフォリオは(バックテストではあるが)、ITバブル後も、リーマンショック後も、S&P500よりずっと早く高値を更新している。
わずか30社弱の厳選投資でもS&P500よりリスクが低いのは、実体がある企業、価値を生む企業を選んでいるから。従って、上昇時にはそれなりに付いていき下落時には下方硬直性がある。
今がバブルなのかは誰も分からないし株価は絶対に予想できない。だからこそ、いい会社をしっかり選んで長期で投資する意義がある。
※2014年9月~2019年8月の5年間の月次リターンは、S&P500上昇時は対指数で約96%とほぼ追従している一方、下落時は対指数で約80%の下落に留まります。この差が積み重なって超過リターンを生んでいます。
ファンド名「おおぶね」への変更と刀・森岡毅さんとの協業
USJ再生で名を馳せた、マーケターの森岡毅さんが代表を務める、株式会社刀とNVICがパートナーシップを組み、このファンドを通じて、長期投資による個人の資産形成の普及を目指すとの発表がされました。
農林中央金庫グループの農林中金バリューインベストメンツと株式会社刀は個人投資家向け年次総会で、新ファンド名称「おおぶね」を正式発表しました。 |株式会社 刀
「米国株式長期厳選ファンド」から「長期厳選投資 おおぶね」に名前が変わったのも、新しいブランドデザインの一環です。
大きな海を、大きな船でゆっくり航海していく。
波風はあっても大船にのって安心して旅していく。
運用者、投資先、受益者が「おおぶね」という一つの船に乗って進んでいく。
森岡さんがNVICと組んだのは、長期投資の大切さを、特に、時間を武器にできる若い人たちに知ってもらい、投機ではない「資産形成」の世界に踏み出してほしいという思いからです。
NVICと刀が目指すのは、消費者を短期売買の「投機」によるハラハラドキドキから解放すること、そして時間を武器にして、厳選した企業に長期に「投資」する機会を拡大することで、個人の資産形成の一助とすること。結果として、消費者が豊かな人生を送れるようにすることです。
森岡さんの熱い思いには共感しましたし、「おおぶね」という名前も、そこに込められた意味を聞いて納得しました。
同じ船に乗る
一方で、以下は私の意見です。
投資信託は、相場の好調時に「儲かりそうだから」と大量にお金が入ってきたり、その逆に「損したから」とお金が出ていったりすると、着実な成長が阻害されてしまう金融商品です。
そうならないためには、新しい投資家に、ファンドの運用理念やNVICの長期投資の考え方をしっかり理解した上で、船に乗ってもらうことが必要です。
認知を広げることは大事ですが、メディアでの露出や販売チャネルをむやみに増やすことは、今の日本の状況では、長期投資による資産形成の普及という目的のためにかえってマイナスとなりかねません。
受益者としては、今までの積立中心の販売を継続してほしいし、もし販社を増やすとしても、NVICの思想をしっかり共有する金融機関と組んでほしいですね。
同じ船に乗るには価値観の共有が欠かせません。いい意味で投資家を選びながら、着実に長期投資の啓蒙普及を目指してほしいと思います。