セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)・奥野一成さんとの対話

農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)のオフィスで、同社のCIO奥野一成さんとの座談会に参加しました。

奥野さんの運用する「米国株式長期厳選ファンド」について過去に書いていて、お誘い頂きました。

日本で長期厳選投資を実践する数少ない運用者

奥野さんは、日本では数少ない「長期厳選投資」を掲げるファンドマネージャーのお一人です。現在、NVICで主に機関投資家向けに日本株と米国株の集中ファンドを運用中で、公募設定された「米国株式長期厳選ファンド」もその一つです。

今回は、少人数の座談会ということで、通りいっぺんなファンドの説明ではなく、奥野さんが92年に金融の世界に入ってから約25年間、経験してきたことや考えてきたこと、その過程でどうして「長期投資」に至ったのか、どうして「長期投資」が経済、社会にとって大切なのか、奥野イズムをたっぷりお聞きしました。

奥野さんは最初は長銀で融資営業、その後債券ディーラー、ヘッジファンド、プライベートエクイティ投資、そして上場株式への長期集中投資、という流れを辿っています。
ずっと株系の方なのかと思っていましたが、ぜんぜん違いました。むしろ、債券やプライベートエクイティの経験があったからこそ、いい事業、強いビジネスに長期でお金を供給する本来の金融の役割を、上場株式でも貫けているのだと思います。

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いいビジネスを探してそのオーナーになること

キーフレーズを書き出してみます。

-「安く買って高く売る」=株券の売買が投資ではない。投資の役割は、社会に価値を提供し続ける企業にお金を供給すること。企業価値が向上し続けて初めて、投資家はその一部をリターンとして受け取ることができる。

-「売らなくていい会社」しか買わない。今は上場株式を扱っているが、企業の永久債を買っているようなもの。かりにJGBがデフォルトしても絶対に潰れないような企業を選べば売る必要はない。

- 根本にあるのは「いいビジネスのオーナーになりたい」という気持ち。日本でも、投資とは企業のオーナーになること、という基本的な考え方を広めたい。

- 日本株の集中投資は2007年に開始したが、約20社のみ、入れ替えほぼなしで、TOPIXの2.5倍勝っている。米国株式は2012年以降だが、農林中金が外部運用している多数のアクティブファンドより勝っている。

- 長期投資できる会社とは、事業機会が自然に集まってくる会社、その分野で誰も勝てない会社。そういう会社は放っておいても儲かってしまう「強い構造」を持っている。

- 経営者は大事だが、ビジネスの構造の方がもっと大事。バフェットの言う通り、ジョッキーがいくらよくても馬がよくなければだめ。ただし、経営者は5年10年先を見て常に強いビジネスをつくる種を蒔く役割があるので、経営者ももちろん大事。

- 企業訪問時は、過去の数字ではなく、事業のこと、競争環境や戦略など大きな話を聞く。そうすると農林中金のことを知らなかった米国企業も興味を示してくれる。

- 企業との対話は「仮説と検証」。企業訪問時は、NVICなりに、その企業についての仮説をチームで議論しペーパーにまとめ、経営者にプレゼンする。これは投資実施後も同様。
→ この話は以前読んだ書籍で詳しく書いてありました。


投資先企業の選び方

- 定量スクリーニングは(ROA基準など一部を除いて)あまりやらない。定性評価が主体。一例では、日本企業を分析する中でも、川上、川下、競合・・・といった関連する米国企業がたくさん出てくる。それらを分析すると自ずと強い会社が見えてくる。

- 米国株式で長期投資というとすぐ「生活必需品」ばかりになりがちだが、NVICでは米国株式でも生活必需品に偏らず、産業関連を3割ぐらい組み入れているのが強み(※公募投信の上位企業では3M、UNITED TECHNOLOGIESなど)。

- リスク分散については、「収益の源泉はどこか」という観点で独自のテーマ項目を設定し、同じようなビジネスばかりにならないよう分散チェックしている。単純な業種分散ではない。基本はボトムアップの定性評価だが、トップダウンのチューニングを組み合わせてポートフォリオを構築

- このようにきちんと分散すれば20~30社で十分リスクは抑えられる。一般のファンドはリターンを損なう「過剰分散」の恐れあり

- ESGについて。いわゆる網羅的なESGレーティングはしていないが、定性評価の中でESG的なことは当然考慮している。ESGといっても、企業ごとに競争優位性に関係する部分はまちまちなので、企業価値向上のために重要なESG要素は何かという観点で検討している。

 

いかがでしょう。長期投資家には響く内容ではないでしょうか。他にもオフレコがたくさんありました。ちなみにインデックスについてはTOPIXはボロクソ、S&P500は新陳代謝があるのでとてもいい指数というご意見でした。

農林中金さんは固い会社のイメージでしたが、NVICは外資系のような雰囲気でした。スタッフが常に自由な発想で仕事ができるよう、オフィス環境にもこだわっているそう。

奥野さんの長期投資の考え方は、企業と投資家の長期的ないい関係、ひいては持続的な資本主義をつくっていく上で根幹になると思います。また、投資=売買して利益を上げるものという狭い考え方ではない本質的なものです。言葉だけのスチュワードシップコード普及よりも、奥野さんのような考え方がもっと広がれば、業界も変わるはずと素朴に感じました。

NVICは、機関投資家相手がメインで、個人投資家との接点は今回が初めてだったそうです。ぜひ、個人向けにも講演等の機会を設けてもらいたいです(販売会社でないので制約もあるようですが)。私がお付合いしている運用者の方々やその受益者さん達ともとてもかみ合うような気がしました。

少し古いですが、奥野さんの運用哲学が分かる記事があったのでぜひご覧ください。

企業価値を見極め集中投資|2012年|Thought Leaderに訊く|ナレッジ&インサイト|NRI Financial Solutions

NVICは奥野さんの母校の京大で企業価値と経営に関する寄附講義も行っています。
関連書籍を頂きました。勉強します。

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