先日、鎌倉投信の春の運用報告会に参加しました。
例年は鎌倉本社で対面の報告会があり、楽しみなイベントなのですが、去年、今年はコロナでかなわず、オンラインでの開催でした。
昨年の報告会の模様はこちら。
いつも通り、長めのレポです。
ゆっくりお読みください。
冒頭メッセージ(鎌田社長)
鎌田さんのメッセージでは、変化の中で長く投資を続け、成果を出すには「自分自身の投資観、ブレない軸を持つこと」という言葉が印象に残りました。
運用会社の運用哲学がブレてはいけないのと同じように、個人も確固とした価値観の軸を持つこと、これは常に自問自答しています。
投資哲学について(資産運用部長 五十嵐さん)
鎌倉投信の投資哲学と運用基本理念の再確認でした。
結い2101は、何のために、どんな企業に投資するのか。運用基本理念はこれを端的に表します。
運用基本理念:お客様から託された資産の長期的な成長と、社会の持続的発展の両立のために、事業性と社会性を兼ね備える「いい会社」に投資する。
その理念の実現のため、「社会価値」「個性価値」「持続的価値」の3つの価値基準と、「人」「共生」「匠」という3つのテーマ・9つの評価視点で企業を選びます。
私なりに言い換えると、社会性(社会価値)と事業性(持続的価値)を両立できるような個性(独自性)=人・共生・匠という視点からみた強みを持つ会社を選ぶということだと思います。
また、結い2101の社会性の要素は一言で説明するのが難しいのですが、社会価値とは、「本業でいいことをして稼いでいる会社であり、稼いだものをいいことに使う会社ではない」という表現は分かりやすいと思いました。
運用報告(橋本さん)
設定来及び2020年度の実績を中心にパフォーマンスの説明でした。
・2020年3月末時点のリターン
過去5年:+6.8%、設定来:+7.8%(年率換算)
2020年4月~2021年3月:+24.6%
運用目標であるコスト控除後年率リターン4%は満たしている。直近1年は大型株の強い相場だったので、TOPIX(+39.3%)には離された。
・投資先全体の企業業績成長率(純資産+配当金額の増加率)は目標リターンを上回って安定的に推移。
・基準価額の変動率(日次の標準偏差の年率換算値)は、コロナがあり年度の前半に目標リスク10%を超えてきたため、株式比率を52%ぐらいまで下げた。足元ではリスクが低下傾向なので株式比率を6割弱まで戻している。
・債券比率はやや下落 (3月末で2.2%)。純資産総額が増えたのと、トビムシの財務基盤強化のため社債の一部を買い戻したため。
・他投信との比較(R&I 国内株コア型 2021年3月末~10年間)
年率リターン:+8.3%(111本中108位)
リスク:9.3%(111本中1位)
シャープレシオ:0.9(111本中7位)
2020年度は、コロナショックの反動以降、大型株中心の上げ相場が続いたため、リターンの絶対値はTOPIXに劣後していますが、長期は目標リターン4%、リスク10%以内を達成していて、シャープレシオも優秀です。
よく、結い2101は「いい会社に投資しているがリターンは低い」と評されますが、これは半分正しくて半分間違っています。もともと、結いは、リスクをTOPIXの半分程度に抑えることで、相場の上下があっても長期間継続して投資しやすい設計にしています。なので、リターンの絶対値だけでなく、リスクも含めたシャープレシオの水準と、運用目標の達成度も合わせて評価する必要があります。
その他、最新の運用状況はこちらもご参考に。
投資先ピックアップ(五十嵐さん)
10年継続投資中の企業は21社です。(非上場除く投資先全62社中の約1/3)
目先の利益ではなく、長期的な社会課題解決のために投資家と企業が同じ時間軸を共有する、いい会社である限り持ち続ける、という鎌倉投信の考え方を、ポートフォリオも体現しています。
10年継続投資企業の中から、3つの評価視点に沿って、未来工業(人) 、アミタホールディングス(共生)、第一稀元素化学工業(匠) 、の価値を解説頂きました。長期的な競争力の源泉が分かりやすかったです。
また、「経営者の印象に残った一言」シリーズでは、小林製薬、萩原工業、アイ・ケイ・ケイが紹介されました。
未来工業は、「残業なし、ノルマナシ」なのに利益を出し続ける会社として有名ですが、これは、社員一人一人が主体的にどんどんアイデアを出す「常に考える」文化が浸透しているからこそできることだと感じました。
〈未来工業〉 日本一幸せな会社をつくった、「常に考える」精神|「colocal コロカル」ローカルを学ぶ・暮らす・旅する
懸念事項のある投資先
問題が起こっている投資先についての対応状況です。うまくいっていないことも、受益者に対して誠実に説明してくれるのは有難いです。
・タムロン
業績悪化で希望退職を募集。鰺坂社長との面談も踏まえ、同社の「匠」は損なわれていないことや、今回の経験を将来にどう活かすかを見るためにも投資を継続。
・ヤマトホールディングス
法人向け引越サービスの不正請求問題が発覚して以降、対話を継続。継続保有はしているが、新規買付は引き続き停止中。
・ホープ
卸電力価格の高騰で主力のエネルギー事業で大幅損失が発生。65億円のペナルティ(インバランス料金)を支払う必要があり財務リスクが高まっている。「持続的価値」に疑義が生じたと判断し、追加買付停止。
ホープの件はニュースで知りました。鎌倉投信が投資を始めた頃は、自治体の空きスペースを活用した広告事業がメインだったので、その後リスクの高い電力小売に偏っていったのは残念です。資金繰りがつかないと債務超過転落の恐れ大ですが、結い2101での4/19時点の組入比率は0.4%で、かりに倒産、となっても基準価額へのインパクトはわずかとのことです。
「ヤマトは全売却しないのか」という質問もありました。鎌倉投信は、投資先に問題があった場合、すぐ全売却するという対応は取らず、会社の本質が変わっていないか、不祥事の経験を将来に活かせるか、対話を続けながら見極めるのが基本スタンスです。この姿勢は大事だと思いますし、投資を始めるときも、やめるときも、それなりの責任が伴うのが長期投資家だと感じます。
ESG投資と「結い2101」
Q&Aの中で「ESG投資と結い2101はどう違うのか?」という質問がありました。
社会性を持つ「いい会社」への投資と、環境や社会に配慮するESG投資のイメージが近いので、こういう疑問も分かります。
鎌田さんのコラムで、鎌倉投信の考え方を説明されています。
ESG投資と「結い 2101」(その1) | 結い日和 | 鎌倉投信
ESG投資と「結い 2101」(その2)~ESG評価の本質~
ESG投資と「結い 2101」(その3)~ESG視点から「人」を考える~
ESGインデックスなどで使われるESG評価は、時価総額上位の大企業を対象に、多くのESG項目を網羅的、形式的にスコアリングするものです。マークシートのようなペーパーテストで総合点、偏差値の高い会社を共通の採点基準で選ぶイメージです。
結い2101は、中小型も含めた全上場企業を対象に、人、共生、匠の評価基準で、個々の企業の社会課題に対する取り組みの個性や他社にはない特徴、独自性を評価します。ペーパーテストというよりは、実技、論文、面接などを通して、個々の会社をじっくり評価し、偏差値では一律に測れない優れた会社を探し出す、というイメージです。形式ではなく実質、中身を見るとも言えると思います。
エフピコを例にした説明も分かりやすかったです。
ESG投資と結い2101の違いで、エフピコの例は分かりやすかった。
— Shunichi Shimoyama (@shimo1974) 2021年4月24日
障害者雇用なら、形式的な数値=雇用率の高低でスコアを付けるのがESGの発想。
鎌倉投信は実質を見る。ただ雇用率が高いからではなく、障害者の人達が本業で活躍し、それが企業価値に結びついているからこそエフピコに投資する。
スコアに基づくESG評価やESG格付は、企業の情報開示や環境・社会面での取り組み全体を底上げしていく上で大事だと思う一方、形式的、定量的なスコアリングではなく、結い2101のように、企業の個性や中身をしっかり評価することこそESG投資の趣旨に合致するのではと思う面もあります。企業側も、機関投資家の資金を呼び込むためにスコアを上げ、ESGインデックスに採用されることが目的化しては意味がありません。
昨今のESGブームの中、投資家も企業も、全てのステークホルダーの利益にバランスよく配慮し、持続的に企業価値向上を高めていくという、ESGの本来の目的に立ち返ることが必要と感じます。
時間を延長して、事前質問、当日質問全てに回答していて、受益者への真摯な姿勢を感じました。
資産運用部に、新たに長田さんが加入され運用体制も強化しています。五十嵐さん、橋本さん、長田さんそれぞれ異なる経験や個性をお持ちで、バランスのいいチームだと感じました。
コロナ禍で企業調査も大変だと思いますが、今年度中に何社か新規組入を検討中とのことで、今後も引き続き期待です。
(追記)
運用報告会のことをまとめていたら、鎌倉投信が非上場のスタートアップ投資を開始するとのサプライズがありました。
「創発の莟(つぼみ)ファンド」を設立|フューチャーベンチャーキャピタル株式会社のプレスリリース
鎌倉投信は、上場、非上場に関わらず、いい会社にお金をまわし、いい会社をふやしていくことを目指しています。結い2101では、実際に非上場企業の社債保有という形式で投資をしていますが、株式の保有はなかなか難しい面がありました。
今回、フューチャーベンチャーキャピタルと共同でファンド(25億円規模)を立ち上げました。出資者には結い2101の投資先であるサイボウズやソウルドアウトが名を連ねています。こちらのファンドで育てた「いい会社」が、上場して結い2101の投資先に、ということもゆくゆくあるかもしれません。個人は投資できませんが、どんな会社を支援していくのかフォローします。