東京ビッグサイトで開催されたエコプロダクツ2015の同時開催セミナーの一つで、自然資本研究会が主催した「ESG投資に向けた企業情報開示~統合報告とエンゲージメントのために~」に参加しました。
自然資本研究会は、三井住友信託銀行のCSR推進室が事務局をやっています。
国内外のESGの最新動向と、運用会社の現場でのESGの取り組みについて、とても参考になりました。
◎講演プログラム
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1.ESG投資の今日的意味と自然資本
三井住友信託銀行 理事・CSR担当部長
チーフ・サステナビリティ・オフィサー 金井 司 氏
2.企業価値創造に結びつく非財務情報の重要性
一橋大学大学院商学研究科 准教授 加賀谷哲之 氏
3.非財務情報の測定・評価と制度開示の動向
PwCサステナビリティ合同会社
執行役員 公認会計士 寺田良二 氏
4.ESGインテグレーションへの取り組み
三井住友信託銀行 リサーチ運用部
シニアアナリスト 稲葉章代 氏
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平日の昼間ということで、業界向け、プロ向けのセミナーでした。
2.はインタンジブルズ(無形資産)に関する最新の研究動向、3.は非財務情報の会計・開示の話でかなり専門的でした。1.4.を中心にメモしておきます。
◎ESG投資の今日的意味と自然資本(金井氏)
<ESG拡大の背景と欧米のESG>
・ESG(環境・社会・ガバナンスに配慮した投資)が拡大したのは、2006年の国連のPRI(責任投資原則)がきっかけ。もともと、E(環境)やS(社会)は、NGOなどの非営利セクターの領域だったが、PRIによってG(ガバナンス)の視点が加わり、株主や投資家を巻き込む概念へと拡大した。その意味で、ES+Gという性格が強い。
・従前のSRI(社会的責任投資)は、倫理面からのアプローチ(タバコやギャンブル関連企業を外すなど)がメインとなっていて、パフォーマンスを求める投資家のスタンスとなじまなかったが、ESGは持続的発展に貢献する企業をポジティブに選ぶイメージが強く、受け入れられやすかった。
・ESG先進国である欧州では、運用プロセスでESG要素を考慮する「ESGインテグレーション」や、エンゲージメント・議決権行使のほか、最近は特定のテーマでの投資除外も増加している。ESGに特化した特定のファンド運用は少なく、通常の運用プロセスにESGを組み込むアプローチが主流。
・SRIの時代に一度は下火になった投資除外(ネガティブスクリーニング)が、欧州で増えてきたのは市民の声が大きい。年金基金などは風評リスクを気にするので、リスク回避のため、問題のある企業をあらかじめ外そうとする動機が働きやすい。
<日本のESG環境>
・日本のESG投資はまだまだ遅れている。高度成長期の、株式持ち合いなどメガバンクを中心とした日本型ガバナンスシステムの存在が大きい。
・日本的な、企業と投資家の「相互不可侵」関係を崩すのが、2つの新しいコードである、外部からの他律的な規範(スチュワードシップ・コード)と企業内部からの自立的な規範(コーポレートガバナンス・コード)。
・非常に保守的な組織であるGPIFが国連のPRIに署名したのは、運用業界ではビッグニュースだった。2つのコードの導入と、最大の機関投資家がESGに乗り出したことで、日本でもESGが広まる素地ができた。
・90年代後半からの、SRIファンドなどを源流とするESG・非財務の流れと、2つのコードによるガバナンス改革の流れが、歩調を合わせつつある。結びつけたのは、「長期投資」というキーワード。
・日本では、ドライな欧米よりも「排除」の論理は働きにくい。ESGが進むとしたら、投資除外よりも、エンゲージメント・議決権行使や、ESGインテグレーションが主体になると思われる。
<「ESG」か「GSE」か?>
・投資家にとっては、「環境」や「社会」よりも、企業の成長や業績に直結する「G」(ガバナンスや人材育成など)の優先度が高い。ESGはもともと、サステナブル投資や環境配慮の流れを汲んでいて、理論的にはE→S→Gという順番だったはずだが、実際の運用の世界ではG→S→Eとなっている。今後論争が起こるかもしれない。
<ESGの本質>
・現預金や設備などの有形資産だけでなく、従業員の知識や経験、企業文化、組織システム、ステークホルダーとの関係性・・・などの「見えざる富」も、企業の無形資産として把握しないと、正しい企業価値は見えない。それらを見える化するのが、ESGであり、統合報告書の役割。
※例えば環境省は、早い時期から「環境報告ガイドライン(2012年版)などで、「企業の将来は財務と非財務を統合しないと分析不可」と主張していた。
ESGかGSEか?は面白い視点だと思いました。
サステナブル投資よりの人達は、EやS(特にE)の立場からESGを語ることが多い印象があります。
一方、リターンを求める投資家の立場では、Gが重要というのも分かります。両者は「持続可能性」「長期投資」という言葉で近づいているかのように見えますが、隔たりがあります。
前半はここまで。
後半はこちらです。