先日、あるセミナーで、大手金融機関でファンドへの投資に携わっている方の話を聞きました。(講師は現役社員で名前出しNGの方、Aさん)
実際の投資信託3本を例にとって、目論見書や各種公開情報を使いながら、プロの機関投資家が行っている「いいファンド」選びの方法や評価基準を学ぼうというもの。
取り上げたのは、インデックス型(バランスファンド)として「三菱UFJプライムバランス」、アクティブとして「ひふみ投信」「セゾン資産形成の達人ファンド」の3本でした。
投資信託を選ぶときのポイント
まず、ファンド選び全体について、講師Aさんの意見は以下です。
この部分はおおむね納得。
- 投信はツールにすぎない。まずは大きな運用目標や投資対象を決めること。
- 過去のパフォーマンスは将来の成績を約束しないので、定量評価よりも将来の運用の信頼度を判断するための定性評価が大事。評価機関の各種表彰は定量評価が多くあまり使えない。
- アクティブファンドの定性評価は個人では入手しにくいが、公開情報でもネガティブチェック(投資NGかの判断)は可能。
- インデックスとアクティブは商品性や運用目標が全く異なるので、同じ目線での比較は無意味。評価機関のレーティングでもそういうケースがある。
ひふみ投信、セゾン資産形成の達人ファンドの定性評価(講師A氏の視点)
これを前提に、ひふみ投信、セゾン資産形成の達人ファンドに対する定性評価は、以下のとおりでした(あくまで講師Aさんの評価)。ネガティブな意見も大事なので載せます。
ひふみ投信
- (マザー)ファンド規模が急激に大きくなりすぎて運用に支障が出るおそれ。
- 規模拡大により銘柄数は増加、経験の少ない米国株が上位になるなど運用内容が昔とはかなり変わってきた。
- 規模追求の背景には株主(ISホールディングス)の意向?(あくまでAさん推測)
- 受益者に対する運用報告は質・量ともに素晴らしい。
セゾン資産形成の達人ファンド
- 過去のパフォーマンスは文句がない。長期で参考指数を上回っている。
- ただし、好パフォーマンスの理由が不明。地域別の比率や組入ファンドを選んだ根拠の説明が少なく、将来に対する確信度がもてない。
- 長期投資と言う割に組入ファンドの入れ替えが結構多い(?)
- 運用チームの体制が弱い。
- 運用責任者(中野さん)が運用以外の仕事に労力をかけすぎではないか。
以上から、2つのファンドはパフォーマンスがよくても、定性評価はNG、したがって「投資できない」が講師の結論でした。
もっともな意見もあり、これはこれで傾聴に値します。運用会社の財務状況の見方なども参考になりました。
独立系投信が販売機能をもつこと(直販)の意味
しかし、講師Aさんのこのコメントを聞いて、評価全体に違和感を持ってしまいました。
「運用会社は運用だけしていればよい。販売機能を持つ必要はない。」
直販は不要、証券会社や銀行などに売ってもらえばいいという主張です。*1
本当にそうでしょうか。
販売会社主導の「売り買いさせて稼ぐ」投信業界を変えるため、さわかみ投信以降の独立系投信はそれなりに大きな役割を果たしてきたと思います。
ファンドの作り手と投資家の間の「顔が見える」関係を作り、草食投資隊などで長期投資や積立投資の考え方を地道に普及啓蒙してきた結果、現役世代に少しずつ浸透し、一定の存在感を持ってきました。
直販によって販売会社の政策に左右されない運用ができますし、受益者に直接自分たちの考え方や運用内容を伝えることで、受益者の信頼感を生み、相場低迷時でも安定的な資金流入につながります。なので、運用会社が販売機能を持って受益者と直接つながることは、ただファンドのファンをつくることにとどまらず、運用上も実質的にプラスの面があります。*2
顔の見える独立系投信こそファンドの定性評価ができる
個人はファンドの定性評価情報を入手できない、というのも私にはピンときませんでした。独立系各社のファンドマネージャーやスタッフの方々とは、報告会やいろんなイベントの場で、運用のことはもちろん、それ以外にもいろんな話をしています。独立系の顧客は、昔はできなかった運用会社とのコミュニケーションから、ファンドをまさに「定性評価」しているのではないでしょうか。
「新規のマーケティングよりも既存の受益者を大事にすべき」的なコメントもありました。これも筋違いかと思います。レオスやセゾン投信以外に、あれだけ手間のかかる運用報告会をあちこちで開く運用会社があるでしょうか。
自分もレオス、セゾン投信、コモンズ投信、鎌倉投信といった独立系の運用会社のおかげで、投資やお金に対する考え方を変えることができたし、投資以外の部分でもいろんな価値をもらっています。もちろん、100%完璧なんてことはなく、各社とも様々な課題を抱えているでしょうが、真っ当な投資を広めようという取り組みは応援し続けたいと思うし、自分の投資行動には変わりありません。
個人投資家は、機関投資家と違って自分の価値観に合ったやり方で自由にお金を託す先を決めることができます(そもそも投資しなくてもいい)。当然「いいファンド」の基準も変わってきていいと思います。
投資には100%の正解はないので、プロや専門家と言われる人達の意見に耳を傾けつつも、やっぱり個人個人が明確な意志を持つことだと改めて感じました。
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