7/26に、会員になっているJSIF(日本サステナブル投資フォーラム)のシンポジウムに参加しました。
ESG投資の最新動向の紹介とともに、日本でサステナブルな投資を「あたりまえ」にするために何が必要か?議論されました。
プログラムです。
・基調講演「環境金融の拡大について」
中井 徳太郎 氏(環境省 総合環境政策統括官)
・アセットクラス別の動向
株式 林 寿和 氏(ニッセイアセットマネジメント チーフ・アナリスト)
債券 林 礼子 氏(メリルリンチ日本証券 副会長・資本市場部門チェアマン)
・ディスカッション
進行 水口 剛 氏(高崎経済大学教授/JSIF共同代表理事)
上記登壇者のほか、金井 司 氏(三井住友信託銀行 フェロー役員/チーフ・サステナビリティ・オフィサー)
・クロージング
河口 真理子 氏(大和総研/JSIF共同代表理事)
登壇者の方々の主なコメントをまとめました。
基調講演(環境省 総合環境政策統括官 中井徳太郎 氏)
・環境省では「ESG金融懇談会」を開催、持続可能な社会に向けお金の流れを変えるにはどうすればいいか議論してきた。
・持続可能な脱炭素社会を作るための大きな社会システムの変革がESGでありSDGs。単なる環境の枠の中の話ではない。
・化石燃料からのダイベストメントは着実に進行。世銀は石炭だけでなく石油、天然ガスへの融資も止めると発表。
・気候変動リスクを、財務情報として把握・開示する動きが進展(TCFD)。
・サプライチェーン全体を再生可能エネルギーでまかなう取り組み(RE100プロジェクト)も拡大中。
・民間セクター主導で新しいお金の流れを作るために、カーボンプライシングの導入は必須。
(参考記事)Sustainable Japanさんより。
【国際】金融安定理事会のタスクフォース(TCFD)、気候変動関連財務情報開示の最終報告書を発表
【エネルギー】RE100と現在の加盟企業 〜再生可能エネルギー100%を目指す企業経営〜
株式の動向(ニッセイアセットマネジメント 林 寿和 氏)
・ESGインテグレーションは運用業界においてもはや当たり前になりつつある。
・運用プロセスの中では、「企業分析・バリュエーション」または「ポートフォリオ構築(銘柄選択/保有比率決定)」の段階でESG評価を組み込むのが一般的。
・ポートフォリオ構築段階の場合には、企業価値(株価)評価とESGレーティングの両方が高い企業を組み入れる、あるいは保有比率を高める。
・一方、企業分析・バリュエーション段階では、E、S、Gの分析結果を、将来のキャッシュフロー予測や割引率に反映し、DCFの株価評価に織り込む。ESG要因は企業価値そのものの構成要素と考えれば、こちらの方がより直接的で有力なESGインテグレーションの方法。
・ESG評価が高い企業の方が業績予想及び算定株価も高くなる傾向。事後の株価パフォーマンスやシャープレシオも相対的に高い。なお、E、S、Gの中では特にS(社会)と株価パフォーマンスの相関が高い。
・ESG評価に基づく企業分析は、企業との対話や議決権行使の土台となるので、スチュワードシップ活動のレベルを高めるためにも大切。
債券の動向(メリルリンチ日本証券 林 礼子 氏)
・グリーンボンド発行額は世界で年40%程度の成長。一方、日本の発行額はまだ小さく伸びる余地大きい。
・グリーンボンドに加え、最近はソーシャルボンドやサステナビリティボンドも増加。
・発行体は世銀や国際機関主体だったが、事業会社の起債も増加。フランスなど国がグリーンボンド国債を発行するケースも出てきた。証券化商品(MBS、ABS)も登場。
・日本企業による発行も増加傾向、最近は円建ての国内募集も増加。
・ICMAのグリーンボンド原則が今年改訂。投資家から見た透明性を高くする方向。
(参考)【国際】ICMA、グリーンボンド原則とソーシャルボンド原則を改訂。外部レビュー等について整理
・東京都のグリーンボンドでは、投資家がHP上で投資表明している。従来の債券市場ではあり得なかったこと。投資家もESGへの取り組みをアピールしたいと思っている。
(参考)発行予定/実績 | 東京グリーンボンド | 都債IR
ディスカッション
どうしたらサステナブル投資、ESG投資が当たり前になるか? 様々な意見が出ました。
冒頭、進行の水口先生が「現時点で、サステナブル投資はどの程度当たり前になっていると思うか?」と問いかけたところ、会場の大半が「まだまだ」との回答でした。自分も同じです。
以下、パネラーの主なコメントです(敬称略)。
(三井住友信託銀行・金井)
・ESGと企業価値の関係は明らかにある。(→ 本来、ESG投資は経済合理的。)
・投資家は、企業の本質的な部分をもっときちんと見る必要がある。一方、企業側も、通りいっぺんの統合報告書ではなく、人事戦略などコアな非財務情報を開示していく必要。
(環境省・中井)
・脱炭素化をしながら持続可能な社会を作るという大きなビジョンの共有。環境にとどまらず、社会、経済の大きな潮流を意識し、マインドセットを変えられるかどうか。
(メリルリンチ・林)
・当社(バンカメ)は全社を挙げてESGに取り組んでいるが、それはESGが「経済合理的」であるから。ポートフォリオリスクの低減(座標資産、移行リスク・・)、企業のレピュテーション向上、インデックスへの組入れ、ミレニアル世代の優秀な人材確保など、実質的なメリットがある。
(水口)
・運用機関にとって、ESGをリスク回避や収益確保の機会ととらえてインテグレーションするところまでは受託者責任の範囲内で経済合理的。ただし、日本ではこのレベルに達していない投資家もまだ多い。
・一方で、気候変動など(時間軸を長く取れば財務要因になり得る)負の外部性の削減については、GPIFなどがユニバーサル・オーナーの立場で担っているのが現状。
(ニッセイアセット・林)
・運用会社だけでなく、アセットオーナーのESG投資に対する明確な意志が必要。また、運用会社、企業でも現場レベルまでESGの考え方が浸透するかどうか。
・負の外部性の領域(地球環境など)は、個々の企業にフォーカスするアクティブ運用ではなく、市場全体をカバーするパッシブ運用でのアプローチがなじむ。
・GPIFのインデックスは、企業に対して一定の基準で今まで見えていなかった非財務情報の開示を促す効果はある。
(水口)
・グリーンボンドは、通常の債券より手間やコストがかかるので発行体、投資家双方にとって「lose-lose product」だと言う人もいる。わざわざグリーンボンドで調達する必要があるのかという意見もあるが。
(メリルリンチ・林)
・発行体のコストや認証の手間は最初は大変だが、慣れればそれほどでもない。投資家からみても、ESG投資への取り組み姿勢を示せるうえ、グリーンボンドは流動性が低い一方で中途換金が少ないので、マーケット急変時の価格下落リスクが一般の債券より小さいメリットもある。
所感
金融機関、行政、研究者、それぞれの立場のESGの第一線の方々から聞けたのは非常によかったです。グリーンボンドはあまり知識がなかったので、いいインプットができました。現在は過渡期ですが、日本の債券市場でも今後大きく拡大していくでしょう。
日本では、GPIFのPRI署名以降「ESG投資」というワードが一気に広まり、SDGsやスチュワードシップコードともあいまって「ESGブーム」の状況になっています。ただし、ESG投資の定義は広範で、解釈も様々なので、場面場面によって「ESG」という言葉が都合よく使われている気がしています。
ESGをブームで終わらせず社会に根付かせるにはどうすればいいか。答えはすぐには出ませんが、河口真理子さんのクロージングコメントがキーだったように思います。
「ESGに関わる専門家であると同時に、一人一人が生活者の目線を持つこと。」
機関投資家や運用会社が扱う資金も、究極的には私たちひとりひとりが、年金、保険、預金などを通じて出したお金です。ESGはきっかけにすぎず、大事なのは、ひとりひとりが、持続可能な社会に向けて、生活者、消費者、投資家として「お金の行き先」に関心を持つことだと思います。
カテゴリ:ESG/責任投資