セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

鎌倉投信 × マザーハウス 山口絵理子さん「Third Way(サードウェイ)」出版記念イベント

京都での鎌倉投信の受益者総会の翌日、マザーハウスと鎌倉投信の共催で、マザーハウスの代表・山口絵理子さんの新著「Third Way(サードウェイ) 第3の道のつくり方 」の出版記念イベントがありました。

マザーハウスからは山口さんと副社長の山崎大祐さん、鎌倉投信からは鎌田さんが登壇。日本にいらっしゃることが少ない山口さんなので、これは、と2日連続で参加しました。

(前記事)鎌倉投信の第10回「結い2101」受益者総会

山口絵理子さんと「Third Way」

マザーハウス創業から13年、社会性とビジネス、デザインと経営、大量生産と手仕事・・・様々な葛藤を乗り越えながら会社は大きくなってきました。代表として、2つの概念の二項対立ではない「第3の道」を模索してきた山口さんなりのクリエイティブな思考法を記したのが、新著「Third Way」です。

日本人は、ビジネスでもそれ以外の場でも、対立するA案とB案があったとしたら、A案とB案の間を取って妥協するのがうまいです。一方、Third Wayは、間を取る=「足し算」ではなく、AとBの「掛け算」で、より前向きで新しいC案を生み出す、という考え方です。

創業のきっかけになった、バングラデシュの劣悪なアパレル工場の光景。先進国で安いファストファッションを大量に売るために、どうして現地の人たちがここまで非人間的な働き方をしなければいけないのか、とショックを受けました。

一方で、現地の当時のフェアトレードや手仕事の現場では、価格に見合わない粗悪な商品を外国人に買ってもらおうとしていました。

前者には作り手の笑顔はなく、後者には買い手の笑顔がありません。

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この、大量生産プロセス vs 職人の手仕事というトレードオフではなく、両方のいいところを取り入れて高いレベルで両立させ、みんなが笑顔になれるビジネスを追求すること、これがマザーハウスの求めてきたThird Wayです。

山口さんの肩書きは「代表兼チーフデザイナー」です。実際に、山口さんと言えばバングラデシュの工場にいたり、各国の現場を飛び回っているイメージです。
しかし、これも山口さんなりのThird Way的な経営です。手を動かすと同時に頭を動かす。現場に居続けることで、会社が大きくなってもマネジメントと現場が乖離しないよう心掛けています。

Third Wayのエッセンス。

  • 相反する二つの良い部分を抽出する
  • 二つを掛け算する(足し算ではない)、クリエイティブは現場から生まれる
  • 出来上がった選択肢がだめでも、改善し続ける

ビジネスに限らず、日常の中でも、2つの価値観や選択肢の間で悩むことは多いです。また、社会的にはいろんな次元で対立と分断が深まっています。仕事にとどまらず様々な面でヒントをくれる考え方だと思います。

社会性と経済性の二元論を乗り越える

ビジネスの世界で大きな二項対立の一つが「社会性」か「経済性」か?という議論。

マザーハウスや鎌倉投信は、とかく「社会性」の軸で語られがちですが、実は、一方で「経済性」をとことん突きつめた経営をしているからこそ、これだけ支持され、大きくなったんだと思います。2社とも、社会性と経済性を融合させたThird Wayを歩んでいる企業ではないでしょうか。

鎌倉投信の鎌田さんは、マザーハウスの経済性を生み出す力はすごいと評しました。それは製造プロセスや工程管理のレベルの高さです。そこがあるからこそ、多くの店舗に多数の高品質なアイテムを適時に届けることができます。結果、マザーハウスは13年連続ずっと売上を伸ばし、多くの途上国の人を雇用してきました。

また、VCを含めて外部の出資を一切受けていなかったマザーハウスが、鎌倉投信の投資を受け入れたのは、鎌倉投信が「いい会社への投資」を掲げながら、裏では極めて精緻で手間のかかる運用とリスク管理を行っていることを、金融出身の山崎さんが理解したからです。この部分はあまり知られていません。

※マザーハウスが鎌倉投信の投資先となった経緯は、以前詳しくお聞きしましたのでこちらを。


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この2つの会社を見ていると、社会性と経済性は二項対立ではなく、経済性に支えられた社会性、あるいは社会性を包含した経済性、をどのように組織や経営に組み込んでいくかがこれからのビジネスのポイントなんだろうなと思います。

関連して、トークの中で印象に残ったのは、いわゆる「社会性」に関心が全くない人たちにどうやってアプローチするか?という話。

(鎌田さん)「社会性」を前面に出しすぎるとコミュニティが閉じてしまい広がらない。芯は必要だが、大衆化するには「社会性」へのこだわりが強すぎてもいけない。

(山口さん)「社会性」は、意識が高くて、お金がなければ実践できない。だから、ファッションが好き。社会性どうこうじゃなく「かわいい!」がまずあり、その先にストーリーがある。社会性を持ってほしい、というより、日常生活の中に自然に取り込んでほしい。

NPOなど非営利セクターの方にもすごく参考になる議論だと思いました。

ちなみに、山崎さんに言わせると、とかく「社会性」で語られる山口さんは、実は極めて経済性にシビアな人だそうです。それはいい商品をつくることへの強いこだわりがあるから。
現場のデザイナーとしての山口さんではなく、経営者としての山口さんの話を聞けたのはとてもよかったです。

記念に鎌倉投信ロゴ入りのレザーしおりを頂きました。

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Third Way(サードウェイ) 第3の道のつくり方 (ハフポストブックス)
山口 絵理子
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