セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

クラシコム・青木社長との対話

コモンズ投信の主催で、投資先であるクラシコムの青木耕平社長をお招きしての対話イベントが開催されました。株主でもあるので、楽しみにしていたイベントです。

クラシコムは、2022年8月に上場。当初1年は機関投資家とのコミュニケーションに力点を置いてきましたが、今後は、個人投資家とも積極的に対話していきたいということで、開催の運びとなりました。現・クラシコム社外取締役の市川祐子さんの紹介で、上場前から青木さんと伊井さんはやり取りがあったそうです。

クラシコムの紹介(青木社長)

クラシコムの主な事業は、ライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」の運営です。青木社長から、会社の全体像とビジネスモデルをプレゼン頂きました。6月にクラシコムの株式を購入した際に一通り勉強したので再確認。

ミッション:「フィットする暮らし、つくろう」

「フィットする暮らし」とは、「自分の生き方を自分らしいと感じ、満足できること」と定義されています。他人と比べてどうこうではなく、自分が好きで心地よい、自分の価値観に合っている、幸せと感じられる、そんなイメージかと思います。「フィットする暮らし」をできている人が増えれば、社会全体が「心地よく」なります。クラシコムは、様々なコンテンツを通してそんな世界観を発信します。

このミッションには、お客様だけでなく、ステークホルダー(社員、取引先、投資家)も、クラシコムと接点を持つことで、「フィットする暮らし」に一歩近づいてほしいという気持ちが込められています。

続いて、ビジネスモデルについて。
クラシコムはいわゆるD2Cビジネスの会社ですが、一般的なD2C、Eコマース事業者とは、「顧客を創造するプロセス」と「顧客との関係維持のプロセス」に根本的な違いがあります。同社を理解する上でここはとても重要です。

一般的なD2Cビジネスでは、大量の広告によって顧客との接点をもち、セール、ポイントなど販促を継続することで顧客との関係を維持しリピートを促します。

一方、クラシコムは、いきなり「商品を買ってください」という宣伝はしません。まずは、多様なチャネルを通じた魅力的なコンテンツを日々発信し、フォローしてもらうことで、「北欧、暮らしの道具店」の世界観に共感を持ってもらいます。継続的にコンテンツを受け取りながらファンになり、その延長線上に購買がある、というプロセスです。そして、購買を機にさらにエンゲージメントを深めていきます。なので、自社を「コンテンツパブリッシャー」と表現します。

顧客創造と顧客維持は基本的に「コンテンツ」を通じて行われるので、広告宣伝費はあまりかかりません。これが相対的に高い収益率の一因です。

「北欧、暮らしの道具店」のコンテンツは、Web記事、YouTube、ラジオ(ポッドキャスト)、Spotify、ドラマ、映画・・・と本当に多岐に渡ります。そして、どのコンテンツもクオリティがとても高いです。

私もYouTubeをたまに見ますが、商品の宣伝がほぼないので不思議な感じでした。商品を売るためのコンテンツではなく、純粋にコンテンツそのものに魅力があり、それを受け取る人は自分に「フィットする、暮らし」について思いをふくらませることができます。

コンテンツを通じた顧客とのエンゲージメント(好きでいてくれること、支持)が入口になるため、重視するKPIはエンゲージメントアカウント数(※)です。現在は約650万人。
※公式 SNS フォロワー数、YouTube チャンネル登録数、アプリDL数、メルマガ会員数等の合計

最新の決算説明書き起こしが分かりやすいです。

コモンズ投信より質問(アナリスト古川さん)

クラシコムは、「フィットする暮らし、つくろう」というミッション実現のために、「自由、平和、希望」というビジョンを掲げます。

他者に支配されない「自由」を獲得する力、ユニークなポジションを築いて望まない競争に巻き込まれない「平和」を維持する力、未来は今よりも良いものだと無理なく思える「希望」を生み出す力、という三つの力を獲得することが重要であると考えています。

アナリストの古川さんより、経営の基本に関わるこの3つのキーワードについての問いかけがありました。

最も印象に残ったのは、「ビジョンをどう社内に浸透させているか?」という問いに対する青木さんの答えです。

-    ビジョンは、ただ言葉を連呼するだけでは浸透しない。
-    経営者が、あらゆる局面で、「自由、平和、希望」と一貫性を持った意思決定を行い、行動し続けること。それが社員から見えれば、ビジョンは自然に社内に伝わっていく。

ビジョンは単なる言葉ではなく、マネジメントが日々の行動で示すことによってのみ会社全体に浸透していく。これはどの会社にも共通することと感じました。

また、「自由」というキーワードについて、自由とは何でもあり、という意味ではなく、「選択の責任を正しく果たせる自由」だという深い話もありました。青木さんの昔のnoteです。

上場という選択肢を取った理由についても問いかけがありました。

もともと財務的には余裕があり、急成長というよりも、ファンを大切にしながらじっくり成長していくタイプの会社だと思うので、私もこの点は関心がありましたが、青木さんからは、会社の永続性や経営の承継を考えてIPOを選んだというお話がありました。

参加者グループワーク&質疑応答

その後、参加者同士でグループに分かれ意見交換。自分のグループには、CFOの山口さんが加わって下さいました。役員の方と直接コミュニケーションする機会はなかなかないので貴重でした。

最後に、全体での質疑応答でした。青木さんはさまざまな質問に丁寧に回答下さいました。

・成長スピードの停滞の可能性
・コンテンツづくりで大切にしていること
・エンゲージメントチャネルの優先度
・商品カテゴリーとSKUの関係
・女性社員比率の高さとワークライフバランス etc.

競合、成長について

他社との競合可能性や、成長スピードの鈍化のリスクについては、コモンズの古川さんも類似の質問をしており、私も気になるところでした。青木さんの回答です。

-    まだまだクラシコムは小さい会社。他社との競争というよりも、今は十分に大きな池がある状態。同じようなことをやる会社が出てきても、一緒に成長できる。
-    必需品は大資本に集約するが、好み、価値観、暮らしやすさ、といった要素を基準としたサービスでは多様な企業が残っていく。

例えば、同じ駅ビルにBEAMSとユナイテッドアローズが出店していてもバッティングしない、という例えはなるほどと思いました。

売上が1,000億ぐらいになったらいろいろ考えないといけないかも、という話も出ましたが、クラシコムのような事業モデルの会社は、アパレルや雑貨の大きな市場の中ではまだまだごく一部に過ぎず、成長ステージが当分続くとの認識です。

私からは、事前質問で強みの源泉であるコンテンツづくりについて、会場では先日のfoufouの買収について質問しました。

コンテンツづくりで大切にしていること

「コンテンツづくりで何を大切にしているか?」との問いに対する回答はとても納得でした。非常に繊細な部分を日々追求し、苦労を重ねているのでしょうね。

-   コンテンツやメディアは人の感情を動かすもの。誰かを喜ばせる一方、誰かを傷つける可能性を常にはらんでいる。
-   とにかく面白いもの、エッジの利いたものを作れば、誰かにハマっても、同時に誰かを傷つける。決して誰も傷つけないこと。そのうえで楽しいと思えるコンテンツを大切にしている。そのために、社員同士のコミュニケーションがとても重要。

foufouのM&Aについて

また、先日のアパレルブランドfoufouの買収について、M&Aによる成長と、「北欧、暮らしの道具店」が築いてきた世界観をどう両立していくのか?という質問をさせて頂きました。このご回答もよく理解できました。

-    foufouはもともとクラシコムととても親和性が高いブランド。同じ価値観を持っている後輩を育てるようなイメージ。
-    今回のM&Aは規模的にもリスクが小さい。ショップブランドの限界を乗り越える方向性を模索する上での一つのトライアル。

所感

全体を通して感じたことを端的に表すと「誠実」という言葉です。青木さんは、私たちひとりひとりに語りかけるように丁寧に話されていました。「うちの会社の株が儲かるかどうかは言えないが、真面目にやる、ズルをしない」という言葉もありました。信頼して託せる経営者と感じました。

もう一つ感じたのは、「伝える」ことにとことんこだわり続けている会社だということです。同席したもう一人の創業者、佐藤店長が、以前青木さんと出演された番組(カンブリア宮殿)で、「売ることより心地よい世界をつくるのが先」と話していたのを思い出しました。

「北欧、暮らしの道具店」のサイトは、スタッフさんの商品に対する「好き」があふれています。読み物も、YouTubeも、コンテンツの全てが「売りたい」ではなく「伝えたい」をベースに作られているように思います。

社員さんの多くがもともと顧客であり、会社のファンであることも大きな強みです。今の時代、どの会社も「モノを売るのではなく、ライフスタイルを伝える」ことを目指していますが、クラシコムのような伝え方は簡単には真似できないのではないでしょうか。

ファンとユーザーと社員さんが一体化していることが、世界観への共感を生む魅力的なコンテンツを生み出し続け、コンテンツパブリッシャーとしての強みを維持できている大きな要因ではないかという仮説を持っています。

少人数で、直接やり取りさせて頂き、解像度の上がる有意義な対話でした。
個人投資家にも、このような機会を頂いたコモンズ投信とクラシコムさんに感謝です。株主でもあるので、今後も同社の価値を掘り下げていきたいと思います。