セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

中野会長退任を受けて:今後のセゾン投信との関わり方

セゾン投信の創業以来、会社を牽引し、長期積立投資の普及啓蒙に大きな役割を果たしてきた中野晴啓さんが、6月28日に退任されました。投信業界では大きな衝撃をもって受け止められました。私もショックでした。

中野さんは、日本の資産運用業界を、真に生活者の長期資産形成に資するものに変革するため先頭に立ってきました。私も中野さんに共感した一人で、2015年に「セゾン資産形成の達人ファンド」を積み立て始め、今ではポートフォリオの25%を占める最大投資先です。「草食投資隊」などさまざまな場でお世話になり感謝しています。

今回の退任の背景は、主にファンドの販売方針をめぐる親会社クレディセゾンとの意見の相違でした。中野さんがセゾン投信を去って1ヶ月、双方の見解が出たので、私個人の考えと今後のセゾン投信との付き合い方を整理しておきます。

1.セゾン投信の見解

2023/6/28付「お客様へのメッセージ」

(2023/8/4追記)確かトップページかニュースリリースに掲載されていたはずなのですが、いつの間にかリンク切れになってしまいました。月次のニュースレターでは同様の内容が読めます。

セゾン投信NEWS LETTER 2023年7月号(PDF)

日経CNBCに園部社長が出演し説明しています。

セゾン投信側の見解をまとめると、

・運用哲学及びファンドの運用方針、運用体制は変わらない。

・達人ファンド、GBFとも、投資対象の流動性は大きいため、資金流出入が運用に影響することはない。

・今後も直販を柱としていく。いたずらに販売会社は増やさない。

・ただし、クレディセゾンはセゾンカード会員への販売拡大が必須と考えており、中野さんとは考え方の相違があった。

一貫して、「セゾン投信は不変です」との基本路線です。それならなぜ中野さんを解任する必要があったのか?とTwitterでも突っ込まれていましたが、セゾン投信の言い分によると、一番の対立はセゾンカード会員へのファンドの販売拡大の是非にあったとしています。

しかしながら、報道によると、クレディセゾンは「規模を10倍にする」と急成長を目指すことを明言しており、実際に中野さんは林野宏会長から「残高6,000億を5兆円にする」と言われたそうです。「いたずらに販売会社は増やさない」という言葉をどこまで信じていいのでしょうか。

※ちなみに、クレディセゾンを通じたセゾンカード会員へのファンド推奨はあくまで「金融仲介」なので、形式的にはセゾン投信の「直販」に変わりはないそうです。だからと言って「今後も変わらず直販重視です!」と言い切るのはやや詭弁に聞こえました。

クレディセゾン、セゾン投信の金融商品仲介業務を開始

 

(2023/9/18追記)

受益者向けの説明会に参加しました。園部さんから直接セゾン投信のより正確な見解を詳しく聞いたので、こちらもご覧ください。

2.中野さんの言葉

中野さんがReHacQに出演し、今回の退任の経緯を語っています。(前後編あり)

・退任経緯は報道のとおり。事実上の更迭。4月にクレディセゾンの林野宏会長に呼ばれて突然告げられた。

・16年で残高6,000億まで育ってきたが、林野氏から「今のままでは全然小さい。残高を5兆円にする。」と言われた。そのために私の存在は邪魔だった。

・当初は親会社も協力的だったし、今までサポートしてくれたことには感謝している。ただ、セゾン投信が目指していることが従来の資産運用業界のやり方とどう違うのか、具体的な部分までは理解していなかったのではないか。

・セゾン投信は一人一人と対話しながら積立の大切さを理解してもらうことを大事にしてきた。その理解がなければ長期投資は継続できない。

・お金を一気に集めることは運用会社としては絶対やってはいけない。地引網のようにお金を集めれば会社のクオリティは変わってしまう。結局は、クレディセゾンの方針と自分が目指すものは真逆だった。

・無理やり5兆円を目指せば、お金の集め方、顧客の作り方は変わってくる。販売会社を増やさざるを得ない。売ることが目的化すれば、顧客本位の業務運営はできない。

会社を子どものように大切に育ててきたのに、その子どもを突然奪われた気持ち、という中野さんの言葉には切なくなりました。

この言葉は響きました。
「まずは、世の中の自分たちのお客様に幸せになってもらうことだけを前提として仕事をする。そうすれば将来的にはお客様は必ず利益を返してくれる。その循環を作ってこそビジネスは持続可能になる。」

中野さんの発言を聞く限り、やはり販路拡大はセゾンカード会員への販売勧奨に留まらない可能性があるようです。具体的には、直販主体から販路拡大への根本的な転換です。セゾン投信が積み上げてきた「顧客本位の業務運営」とは相容れない、「売ることありき」の投信会社に舵を切ることは、ある意味セゾン投信の自己否定であり、中野さんはそれだけは絶対許容できなかったのではないでしょうか。

ひいき目かもしれませんが、やはり中野さんの言う事に道理があり、セゾン投信は正直に語っていないように感じます。

3.私自身の受益者としての考えと対応

以上を踏まえ、私個人としてはこのような意思決定をしました。

・セゾン投信直販口座の達人ファンドは全解約
・iDeCo(楽天証券)の達人ファンドの積立は継続、ただし積立額は減らす

達人ファンドの保有額は以前の約6割となりました。

※中野さんも言っているとおり、今後セゾン投信とどう関わっていくか、保有ファンドをどうするかは、一人一人の価値観に従い決めるべきことです。

ファンドの運用自体が現時点で変化したわけではないので、全部解約はしませんが、今回の会社の対応には不信感が大きいため、投資額を減らした上で、今後の販売方針や顧客対応の変化を見極めたいです。

この結論に至った理由です。

・中野さんの退任によってすぐにファンドの運用が変わるわけではない

今回は突然の解任という想定外の事態でしたが、今回の件がなかったとしても、長い目で見ればいずれ中野さんが退任する時は来るわけです(そもそもそのつもりで、中野さんは2020年に社長を園部さんに譲り会長に就きました)。

中野さんがいるいないに関わらず、投資している「達人ファンド」の運用哲学や運用方針、運用プロセスが変わらない限り、投資を継続するのが合理的だと思います。

・販路拡大の動向や運用への影響は不透明

上記とも関わりますが、受益者として恐れるのは、今後のクレディセゾン主導の販路拡大や急激な集客、資金流出入のボラティリティ増大によって、受益者の質が変わり、ひいてはファンドの運用が影響を受けてしまうことです。

長期積立の重要性を理解した、直販主体の顧客層による安定的な資金流入が損なわれれば、結果的に投資行動やパフォーマンスに悪影響があるかもしれません。特に、達人ファンドの資金流入は非常に安定して推移してきたので、急激なお金の出入りの影響は未知数です。

ただ、セゾン投信側は、園部さんもポートフォリオマネージャーの瀬下さんもこの点は「問題ない」と明言しています。たしかに、達人ファンドの実質的な投資対象は国内外の大型株が主体なので、ポートフォリオが歪むことはなさそうですが、しばらくは動向を見守る必要があると思います。

また、「いたずらな販路拡大はしない」とのことですが、上記のとおり、急激な販売拡大へとシフトしないのかも不透明です。

・ここまで会社を育ててきた中野さんの突然の解任や経緯の説明には不信感

一方で、クレディセゾンによる今回の解任劇は、これまでの中野さんの長期積立投資の普及や投信業界の改革に対する長年の努力と貢献を否定し、われわれ受益者の意向も無視するものです。株主と経営者の関係に受益者が口を挟めないのは承知ですが。

また、中野さんも言う通り、「セゾン投信は変わりません」と言い続けること自体が、顧客本位の業務運営を第一に掲げてきた投信会社の対応として非常に不誠実と言わざるを得ません。中野さんを排除してまで変えたいものは何なのか、正直に説明してほしいです。「新NISA開始も踏まえ、セゾン投信は従来の直販路線を改め、販売を拡大し残高5兆円を目指します!」ぐらい言ってもらった方が分かりやすいです。

「達人ファンド」そのものは、世界の素晴らしい企業に厳選投資し、長期で結果を残している強いアクティブファンドです。ファンドへの信頼は現段階では揺らいでいないものの、一連の経緯から、会社としてのセゾン投信には不信感が生じてしまいました。

それに加えて、付随的な理由ですが、ここ数年達人ファンドの投資割合が大きくなりすぎたので、減らすタイミングを見計らっていたのもあります。

悩ましいところですが、投資を継続しつつ、セゾン投信との距離を以前よりも取り、ファンドへのコミットを弱めるため、一部解約&積立額を減らすという判断になりました。(幸い、達人ファンドのパフォーマンスは優秀なので大分利益は出ました)

今後は、運用の中味や資金流出入の動向、販売方針や受益者に対する関わり方がどの程度変わるのかフォローしていきます。それらの結果次第では、iDeCoも含めて全部解約するかもしれませんし、逆にセゾン投信に今感じている不信感が和らぎ、直販で達人ファンドに再投資することもあるかもしれません。ゆっくり考えたいと思います。