セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

いい会社の理念経営塾「人を育てる組織の哲学」(第1回 株式会社エー・ピーカンパニー取締役副社長・大久保伸隆さん)

NPO法人いい会社をふやしましょう主催「いい会社の理念経営塾」の第4クールが始まりました。

今クールは、「人を育てる組織の哲学」をテーマに、全5回です。
初回のゲストは、「塚田農場」を運営するエー・ピーカンパニーの副社長・大久保伸隆さん。同社は鎌倉投信の投資先でもあります。



大久保さんは、23歳の時(2007年)にエー・ピーカンパニーに入り、現場の店長から7年で副社長にまでなった人です。鎌倉投信・新井さんは、大久保さんに会って「100年続く外食産業なんてない」という考え方が根本的に変わったそうです。冗談まじりに「5分で投資を決めた」とも。
今の塚田農場の成長は、大久保さんなしにはあり得ません。

大久保さんが入社した2007年当時から宮崎地鶏を使ったメニューを出し、素材はよかったものの、人材育成や店舗運営は全くダメな状態でした。入社3ヶ月目に任された葛西店で成果を上げ、その後の錦糸町店時代に、名刺システムはじめ、今につながる教育システムや販促アイディアを次々生みました。

●EIS(従業員感動満足)とCIS(お客様感動満足)

どうしたら従業員の感動満足度(従業員満足度ESに、Impressiveを加えて「EIS」と言います)を高め続けられるか?が大久保さんの出発点であり、永遠のテーマです。

従業員の満足度は、精神的な面(やりがい、仲間意識、成長実感)と、金銭的な面(待遇、給料)の2つがあります。これらは、サービスを提供したお客様に感動と満足(お客様感動満足「CIS」)を与え、売上を上げることでしか実現しません。
したがって、EISとCISは一体であり、EISとCISは会社を成長させる両輪です。

しかし、本当にCISを高めるには、従業員に「お客様に感動を与えよう!」といくらセミナーや研修で説いてもムダです。
大事なのは、お客様にどうしたら喜んでもらえるか?従業員が自ら考え、楽しく実践できる仕組みを店舗の現場のプロセスに落とし込むこと。ここが大久保さんの発想のポイントです。

人材育成の本質は、自ら動ける「場」を与えること。
いまや塚田農場の代名詞となった、来店ごとに昇進する名刺や、アルバイトに客単価の一割分のサービスの裁量を与える仕組みなど、従業員が自ら進んで勉強し、お客様を喜ばせたいと思わせる場が現場にたくさん用意されています。大久保さんは、従業員の自主性と想像力を引き出すのに本当に長けた人だと感じました。

●「ツカラボ」はじめ独自の取り組み

最近は、店舗以外でも面白い取り組みを次々行っています。

塚田農場キャリアラボ(ツカラボ)は、就活中の学生アルバイトに対して、就活支援の研修を行い、企業とのマッチングもするサービスです。
その内定率の高さから人気を呼び、塚田農場のアルバイト採用倍率は10倍近くという狭き門です(2016年からはアルバイト以外の学生も対象のようです)。

企業からはお金を取らず、学生は他社に行ってしまうので、会社側にとってはメリットがなさそうですが、アルバイトの在籍期間が延び、採用コストが下がる効果もあるそうです。

(参考)
アルバイトの戦力を最大限に引き出す教育制度「ツカラボ」~エー・ピーカンパニー~(前編)~「従業員感動満足度」と売上は比例する|@人事ONLINE

各部の責任者が、内定者に対して自部署をプレゼンして、内定者自らが配属を決める「事業部総選挙」も面白いです。

最近は外国人の従業員も増えています。終身雇用が崩れ、働き方を自分でデザインしなければいけなくなった時代に、エー・ピーカンパニーは、単にアルバイトの人材育成という枠を超えて、多様な人が能力を発揮できる多様な選択肢を提供しています。




●組織急拡大には課題も

とはいえ、エー・ピーカンパニーも順風満帆なわけではありません。直近期(H28.3期)は増収こそしたものの、既存店の不振などで創業以来初の大幅減益でした。

現在、塚田農場だけで150店舗、他業態も入れたら約200店舗(10年で約10倍)、6,000人の従業員がいます。後半の鎌倉投信・新井さんとのトークでも話題になりましたが、会社の急拡大と出店急増により、トップの理念が現場まで浸透しにくくなっている面があります。

このため、シンガポールで海外事業を担当していた大久保さんは、現在再び日本に軸足を置き、国内の人材育成体制の立て直しに取りかかっています。新井さんは「成長痛」と評しましたが、会社が次のステージに上がれるまで頑張ってほしいです。大久保さんがいる限り安泰でしょうが、大久保さんがいなくなるリスクもないことはないので、そのイズムをどう継承していくか、今後は、教育する側を育てるのが課題です。

大久保さんは、副社長の立場にありながら、今でも週2回は店舗(天王洲アイル店)に立って直接現場を指導しています。以前、石坂産業の「SATOYAMAエキスポ」の打ち上げで天王洲店に行ったときは、さわやかな店長さんという印象でしたが、講演ではうって変わって、強さと自信にあふれるリーダーの風格でした。話を聞けてよかったです。

大久保さんの著書。未読なので読みます。

理念経営塾の第4クールは、今後、カヤックの柳澤大輔さんや、スノーピークの山井社長なども登壇予定です。