3/11のコモンズ投信8周年イベント。午後の「対話の部」のレポです。
前半の運用報告はこちら。
●ユニ・チャーム高原豪久社長 基調講演
午後の部は、コモンズ30ファンドの投資先企業、ユニ・チャーム高原社長の講演からスタート。
高原さんは、2001年、39歳の時に父から会社を引き継ぎ、現在16年目。グループ22,500人を率います。
ユニ・チャームというと、紙おむつムーニーが有名ですが、赤ちゃん、女性、高齢者、ペットケアまで、「人の生活にスキマなく」ライフサイクルの全てに関わる生活密着型企業です。
ユニ・チャームの強みは、海外事業展開です。
1980年代から進出を開始し、今や80ヶ国以上で製造・販売しています。海外売上比率は6割に上り、コモンズ30ファンドがかかげる「世界の成長を取り込んで長期的に成長できる」典型的な企業です。
ただ、もともと海外に強かったわけではもちろんなく、90年代以降、事業の「選択と集中」を進めることができたことが要因です。そもそも、創業当時のユニ・チャームが建材メーカーだった、というのは知りませんでした。
今後、新興国を中心に、紙おむつや生理用品の爆発的な需要が見込まれます。
P&Gなどライバルも多い中で、ユニ・チャームは、現地の女性たちに寄り添った活動で、アジアではトップを走っています。海外売上は将来的に7割以上に高まる見込みです。
講演後の渋澤さんとの対談では、高原社長の現場との距離感の近さが印象的でした。
高原さんは経営と現場の「共振力」を大事にしています。誕生日の社員に社長自らメールを送ったり、社員との居酒屋談義を繰り返しながら、経営の方向性が現場のホンネとずれていないか?振り返る姿勢は、その辺の大企業の経営者にはマネできないことです。オーナー会社のいい面が出ている企業だと感じました。
●投資先企業との対話(東レ・日東電工)
続いて、投資先企業から、東レのIR室長・神山さんと、日東電工のIRグループ部長・塩路さんが登壇。
両方ともメーカー、しかも素材や中間材料なので何を作っているのかイメージしにくいのですが、例えば東レの炭素繊維、ヒートテックや、日東電工の液晶偏光板など、生活にとても身近な会社です。
コモンズの運用チームとの質疑応答では、運用会社と投資先の対話の一端が見られて興味深かったです。昨年のイベントでもそうでした。
短期的な業績がどうこうではなく、見えない「企業文化」や「経営力」を生み出すもの=長期的な競争力の源泉を探ろう、というコモンズの企業分析のスタンスが伝わってきました。
●プリファード・ネットワークス 取締役COO長谷川順一氏講演
今回のイベントの目玉とも言えるのが、AI分野のベンチャー、プリファード・ネットワークス(PFN)の取締役COO、長谷川順一さんの講演でした。「変化」というキーワードで、AIの今と未来をお話頂きました。
PFNは、自動運転でトヨタ、ロボットでファナックと資本提携するなど、「グーグルの上を行く」と世界中から注目される企業。IoTとAIを結びつけ、新たな価値を提供しています。
(参考)人工知能のその先へ 「グーグルの先を行く」プリファードネットワークスが描く未来 - 東大新聞オンライン
ぶつからない車や、産業用ロボットの「ディープラーニング」の様子を映像で紹介頂きました。
ランダムに作業を繰り返す中で、情報を蓄積し、「ぶつからない」あるいは「モノをきちんとつかむ」という正しい行動に短い時間で到達できるようになります。人間があらかじめ全てをプログラムするのではなく、うまくいったらプラスの報酬、だめだったらマイナスの罰を与えることで、機械が勝手に学習し、正しく判断する仕組みです。
こちらの動画です。機械が経験に基づき習熟する過程がよく分かります。
「日本のAIは遅れている」、というのは間違いと長谷川さんは言います。
PFNは、AIの中でも、クラウドではなくデバイス、個人向けではなく産業用にターゲッティングしています。この分野では、Google、Facebookといった欧米のIT企業よりも、モノづくりに強い日本のアドバンテージがあります。
また、自動車、ロボットだけでなく、遺伝子解析を高度化して、人個人に最適な治療や処方を行う最適化医療など、ヘルスケア分野にも取り組んでいます。
AI=バーチャルな印象を持ちますが、実は身の回りのいろいろな製品や生活と密接に結びついてくるものです。
クラウドからエッジコンピューティングという、今までと逆の方向性が起こりつつあるのも勉強になりました。
一方、AIは、便利なだけでなく、「人口知能でなくなる仕事」という見出しのように、人間にとって脅威との意見もあります。究極は、機械が人間に敵対するターミネーターの世界ですね。
確かに、AIに置き換わる仕事もあるでしょうし、AIでデータを有効活用できない企業は生き残れなくなる時代になるでしょう。既存の業界の垣根もなくなっていきます。
ただ、長谷川さんは、AIは、大量のデータを処理したり、モノを認識して判断することはできても、人間の「おもてなし」や、言葉を使った柔軟なコミュニケーションは決して真似できないと言います。
人間の仕事を奪うのではなくて、人間ができない部分を補う、人間の生活を豊かにするためにAIが役立つ時代になるといいと思います。
●コモンズ投信の「寄付のしくみ」 3keys森山誉恵さん、日本視覚障害者柔道連盟
最後のパートは、コモンズ投信の大切な取り組みであるNPOなどソーシャルセクターへの寄付について。コモンズ投信は、「寄付も未来への投資」という考え方のもと、私たちが支払った信託報酬の一部を、受益者の声も聴いた上で寄付し、継続的にサポートしています。
応援先である、NPO法人3keysの代表理事森山誉恵さんと、視覚障害者柔道連盟の遠藤監督や代表選手が登壇され、活動報告と、コモンズのサポートを受けて感じていることについてシェアされました。
3keysは、個人でもマンスリーサポーターとして応援しています。
貧困や虐待などの厳しい環境下にある子どもたちへの学習支援などを行う3keysと、スポーツを通じて視覚障害者の活躍の場をつくっている視覚障害者柔道連盟。全く分野は違いますが、社会の中で埋もれがちなマイノリティーや社会的弱者の人たちと社会をどうつなぐか、という点では共通すると思いました。
森山さんは、SEEDCapを通じて、コモンズ投信のコミュニティとのご縁ができたというお話をされました。
応援先の方々が、単に寄付(お金)だけでなく、コモンズ投信やわれわれ投資家との継続的な関係を大切に感じていてくれて嬉しかったです。
イベントの最後の最後に、エムアットさんと私が、受益者を代表して、コモンズの寄付の取り組みについて思う事を話す機会を頂きました。
コモンズ投信との関わりを通して、3keysをはじめ、いろんなNPOと接点ができましたし、寄付やボランティアを通じた社会参加で人生の幅が広がりました。
社会を変えようと頑張る人をお金でサポートするのが金融の本来の役割です。コモンズ投信の取り組みがきっかけとなって、投資から寄付へ、あるいは寄付から投資へ、というお金の循環が生まれればいいと思います。
朝から懇親会まで、長い一日でしたが、ちょっとだけ登壇もさせてもらって、とても記憶に残るイベントでした。