「おおぶね」でお世話になっている、農林中金バリューインベストメンツのCIO・奥野一成さんより新著をお送り頂きました。ありがとうございます。
前著「教養としての投資」は大人・ビジネスパーソン向けのお金と投資の本でした。
本書は10代向けのお金の教科書です。
親や先生の影響もあり、私たちは「お金」にはあまりいいイメージを持たずに大人になるのではないでしょうか。また、お金、経済、会社の仕組みや社会的な役割を学ぶ機会も少ないように思います。
本書は、これから社会に出る若者向けに、学校や家では教えてくれない、お金と資本主義の本質や、豊かに生きるための自己投資と長期投資の考え方を伝えています。また、自分の頭で常に考え、受け身でなく主体的に働き、生きることの大切さを教えてくれます。
お金は「ありがとう」のしるし
大事なフレーズを紹介します。
お金とは「ありがとう」のしるしです。世の中のどれだけ多くの人に「ありがとう」と言われることをしたのか、「ありがとう」と言われるものを創り出したのか。「ありがとう」の総量がお金で評価されるというのが資本主義の基本原則です。
<1章 お金ってなんだろう>
長期投資を通じて、企業が行っている顧客・社会の問題解決を応援し、それによって少しずつ顧客がハッピーになり、社会も少しずつ良くなっていくのです。(中略)
長期的な利益の追求により、利己と利他は調和するのです。
<6章 価値を創造しよう>
企業が社会のさまざまな問題を解決することで、多くの人から頂く「ありがとう」をお金で表したものが利益です。だから、「お金持ち」になるには「自己投資」と「長期投資」が必要だと奥野さんは言います。
自己投資によって、他人の問題を解決できる人、社会に価値を提供できる人になること。
長期投資によって、社会に価値を生み続ける強い企業のオーナーになること。
そして、この2つは関係しあっています。株式投資を通じて投資家の目線を持つことは、すなわちビジネスや社会課題について日々考えることです。それは仕事上の気づきや成長につながり、ビジネスパーソンとして生きていく競争力になります。
自分の人生のオーナーになる
株式投資が企業のオーナーになることなのと同じく、自分の人生にもオーナーシップを持とう、と奥野さんは言います。
根底にあるのは、
「常に自分の頭で考えろ」「周りに流されず主体的に生きられる人になれ」
というメッセージだと感じました。
ただただ給料をもらうために漫然と会社に行っているだけでは、経済成長が見込めないのに、人生100年の長生き時代を迎えた今、生き抜けないかもしれません。
そうではなく、常に自分で考え、主体的に働き、独創的なアイデアを出し、社会に価値を提供できる人になってほしい、と奥野さんは言います。そうすれば、お金は後から必ずついてくるし、そういう若者が増えれば、社会全体もよくなっていくでしょう。
私の「投資」を振り返ってみる
自分は40代後半なので奥野さん世代に近いです。
振り返ると、「自己投資」は結構頑張ってきました。新卒早々サラリーマン生活に不安を感じ、外でも生きていける力を身に付けようと、語学や資格(中小企業診断士、簿記、不動産鑑定士)の勉強に走りました。大学生の頃より社会人になってからの方が圧倒的に勉強したと思います。
紆余曲折あったものの、今は鑑定士で独立して15年近くになります。あの頃勉強していなかったら、今頃中高年リストラの恐怖に怯えていたでしょう。そこは頑張って良かったと思っています。
一方で、企業への長期投資はその大切さに気付くのが遅かったです。20代、30代前半までは投機にあけくれていましたし、会社員時代に自社のビジネスについて真剣に考えることなど皆無でした。この本に20年早く会っていれば少し変わったかもしれません。
資本主義をアップデートする
最後に、この本は資本主義を手放しに礼賛しているわけではない、ということも触れておきます。
奥野さんは、短期主義が生むバブルや、環境破壊、格差拡大など行き過ぎた資本主義の問題点も述べています。しかし、それらを認識し、きちんと修正していけば、長期的な利益追求(利己)と、社会全体の価値(利他)は調和できるはずとしています。私もそう思います。
読者である若者に対して、みんなが幸せになれる資本主義をつくってほしい、というメッセージには共感しました。
資本主義は利己と利他が調和できる素晴らしいものであると書いてきました。それは本当です。しかし、資本主義には致命的な欠点があります。資本家は労働者より圧倒的に有利にできているため、貧富の差が広がり続けてしまうということです。
これは健全なことではありません。
だから君たちに、資本主義をアップデートしていってほしいのです。これは君たちの世代に残された課題です。<おわりに>
高校の家庭科で「投資信託」の授業が始まるそうです。ただ、金融商品の話以前に、お金と経済の仕組み、働くことの意義を広く知るための教育が必要だと思っています。
ぜひ学校で、本書を参考図書に採用されてはいかがでしょう?
奥野さんが運用責任者を務める「おおぶね」の年次総会の模様です。