セルフ・リライアンスという生き方

自立した個人として豊かに生きる。長期投資のメモ。

ビジネスエリートになるための 投資家の思考法 The Investor's Thinking(奥野一成・著)【書評】

長期投資についていつも学びを頂いている、「おおぶね」のファンドマネジャー、農林中金バリューインベストメンツのCIO・奥野一成さんの新著です。有難いことに献本頂きました。

2020年の「教養としての投資」の続編である本書は、長期投資の根幹となる「インベスターシンキング」とは何か、なぜ「インベスターシンキング」が必要なのか、具体的かつ実践的に説いています。

「自己投資」と「長期株式投資」の土台となるインベスターシンキング

本書で語られる投資とは、自分への投資(自己投資)と、企業への投資(長期株式投資)です。

これからの不確実な時代には、
・ビジネスパーソンとして自分で働く価値を高めること
・ビジネスオーナーとして強い企業に投資し価値増大のリターンを得ること
の両方が必要になると奥野さんは言います。

そして、この2つの投資に共通して求められるのが「事業の経済性を見極める」ための思考=インベスターシンキングです。

本書は、巷の投資本のような小手先のテクニックは一切触れません。もっと本質的で根本的な、全てのビジネスパーソンに必要なマインドセット&スキルセットを学ぶ教科書です。労働も、株式投資も、そして経営も、全ては「インベスターシンキング」が土台にあることを理解するのがこの本の入口です。

インベスターシンキングの実践的方法

「教養としての投資」の実践編ということで、奥野さんが30年にわたり培ってきたインベスターシンキングが詳細に披露されています。そんなに手の内を明かしていいの?と思ってしまうぐらいです。

「おおぶね」の運用レポートでも毎回出てくる「付加価値」「競争優位性」「長期潮流」という3要素は非常に大切ですが、第3章、第4章では、それらの事業の経済性を見極めるための共通思考である「3つの視点」と「5つのプロセス」が紹介されています。バリューチェーンの俯瞰や、分野横断的なアナロジーなど、非常に勉強になります。具体的な企業の事例がたくさん出てくるので納得感が高いです。ベテラン投資家さんにも参考になると思います。

私が特に大事と思ったのはこの部分です。

業種、セクター、国などの固定観念を捨てて、財・サービスの本質を需要サイド(利用者・消費者)から掘り下げるということです。(p173)

顧客にとっての真の付加価値は何なのか、キャッシュフローを持続的に生む構造はどのようなものか、、好奇心と想像力、なぜ?を繰り返す探究心、そして、数字を可視化して様々な角度から分析し、仮説を構築する力が求められます。

私の場合、金融資産のポートフォリオは投信がメインで、奥野さんはじめ信頼できるファンドマネジャーにお願いしている部分が大きいのですが、最近は(奥野さんの影響もあって)個別株の保有も増えてきたので、この第3章・第4章はとても有用でした。

自分の歩みを振り返る

本書では「自分資産」と「金融資産」の組み合わせを「ジブン・ポートフォリオ」と表現しています。「自分のオーナーになる」という考え方は、個人的にとても共感します。

というのも、自分も20代でサラリーマンとしての将来に不安を感じ、資格取得という自己投資に勤しみ、20代後半からは金融商品への投資も始め、紆余曲折を経て不動産鑑定士として30代で独立し、長期投資をしながら今に至るからです。

本の中で「会社に左右されない会社ニュートラルな人」が出てきますが、自分も若い頃ずっと「会社や国に頼らず、自立した生き方がしたい」と思っていました。ブログのタイトル「セルフ・リライアンス」の由来もそうです。

30代前半までは自己投資を頑張り、独立後は、自分が最も付加価値を提供でき、戦えるポジションを見出してきました。鑑定士として開業して15年、事業規模は小さくても簡単には代替されない参入障壁を築けた自負があります。その意味では多少なりともインベスターシンキングができていたのかもしれません。

その一方で続けてきた積立投資のお陰もあり、今では金融資産もかなり育ちました。しかし、事業(仕事)をリタイアしようとは思いません。仕事は面白いし、社会とつながりを持てる大事な手段です。奥野さんの言う、顧客の問題解決の対価=「ありがとうのしるし」としてお金を頂くのはやりがいの大きいものです。本書の教えは、主に株式投資に活かしたいと思います。

あなたは労働者であり資本家なのです。(p65)

ぜひ、学生さんや若い世代の人達がこの本を手に取り、自分の人生のオーナーになるための歩みを踏み出してもらいたいです。

 

奥野さんの過去の著書のレビュー。投資経験が少ない方はこちらから読み進めて頂くのもおススメです。