セルフ・リライアンスという生き方

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個人投資家目線で見た金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」

今年6月に、金融庁が「サステナブルファイナンス有識者報告書」を公表しました。
ESG投資を中心とするサステナブル金融を推進するための方策を検討したレポートです。

「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」の公表について:金融庁

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先日、有識者会議の座長を務めた水口剛さんが、QUICKで総括的な記事を書かれていました。この記事も見た上で、レポートを読みました。

【水口学長のESG通信】金融庁有識者会議の到達点と今後の課題 | QUICK ESG研究所

レポートでは、ESGのうち特に気候変動への対応を念頭に置きながら、企業の情報開示のあり方や、グローバルな開示基準策定への関与、投資家によるエンゲージメント、個人投資家向けの商品、ESG評価機関や認証、金融機関のリスク管理などについて、金融行政の方向性をまとめています。

投資信託メインの個人投資家の立場から、感じたことを書きます。一つは受託者責任について、もう一つは個人向けのESG投信についてです。

 

・受託者責任との関係を明記したのはよかった

ESGを投資判断に組み込むことはリターンを損なうので受託者責任に反する、などと主張する人が専門家の中にも未だにいます。世界の潮流から見れば時代遅れです。

冒頭の総論では、環境や社会課題を考慮した投融資が、社会の持続可能性の向上によってポートフォリオ全体のリスク・リターンを改善することに触れたうえで、欧米の動向も踏まえこう書かれています。

ESG 投資は受託者責任に反しないという認識は 、 全世界的に一定程度の支持を得ているものと考えられる 。(中略)ESG 要素を考慮することは 、 日本においても受託者責任を果たす上で望ましい対応と位置づけることができると考えられる 。(p5)

金融庁の公式なレポートで、基本的な大前提として、ESG考慮が受託者責任の観点からも望ましいと明記したのはよかったと思います。

 

・「ESG投信」の基準は実質をよくみてほしい

年金など機関投資家の運用資産だけでなく、1,900兆円もの個人金融資産をサステナブルなお金の流れにどうつなげていくかは大きな課題です。第3章の「個人に対する投資機会の提供」の中で、最近急増しているESG関連投信について書かれています。

まず、私も多く投資しているアクティブファンドについてです。
最近「ESG」をファンド名に付けた投信が売れている一方、何をもって「ESG」とするかは、各運用会社の裁量次第となっていて、企業選びの基準やESG評価の具体的な方法が説明されていない、と指摘されています。金融庁では、「ESG投信」に一定の定義や基準を設け監督を強める方針です。

これは私もずっと感じている問題点です。どこがESG?と思う「ESGファンド」がたくさんある一方、ESGという冠がなくても、きちんとESGインテグレーションを行っているファンドもあります。

金融庁には、形式的な基準(ESGスコアを活用しているか等)だけでなく、運用の中身をしっかりチェックしてもらいたいです。例えば、テーマで短期売買するようなファンドは、ESG投信とは言えないはずです。

一方、パッシブファンドについても言及があります。
パッシブの場合、ESG指数連動型のインデックスファンドやETFになるので、ポートフォリオの構成は指数次第です。したがって、企業選び以外の部分、つまり、運用会社としてのエンゲージメント活動や、TCFDなど枠組みへの参加について、投資家に対する積極的な開示や説明を促すべきとしています。

インデックスファンドはコストが低いことがよしとされてきました。しかし、ESGの観点でインデックスファンド(ESG指数連動型のもの)を評価する場合には、低コストありきではなく、エンゲージメントなど運用会社自体のESG活動へのコミットや開示が充実していれば、そのコストが信託報酬にオンされることも是とすべきだと思います。

 

・生活者の関わりの重要性

サステナブルな金融の普及にとっては、企業や機関投資家だけでなく、ひとりひとりの生活者=個人の役割も大事です。

世界が持続可能な社会の構築に向けて大きく舵を切った今、 社会を支える重要なインフラである金融も 、この動きに整合していく必要がある 。 こうした金融の変化に関わるのは 、 企業や金融機関といった 経済主体はもちろんのこと、一人ひとりの生活者でもあり、これらの関係者の行動の集積が具体的な変化として現れてくることになる。(はじめに)

個人が、消費者や労働者としてだけでなく、投資家としても、サステナブルな社会への移行プロセスに正しい形で参画できるよう、金融庁や金融機関には、長期的な視点で制度や商品の整備を進めてもらいたいと思います。

そのためには、投資信託そのものが、「売ること」ありきで大量に作られ、消えていく現状も変えていかないといけません。これはESG投信に限ったことではなく、投資信託全体の金融商品としてのサステナビリティを高めることでもあります。

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