ミャンマーでマイクロファイナンス事業を運営する、MJIエンタープライズの日本人CEO、加藤侑子さんのお話を聞いてきました。
セキュリテを運営するミュージックセキュリティーズ(MS)と、カンボジアなどのマイクロファイナンスファンドの企画で、MSと連携してきた認定NPO法人Living in Peace(LIP)、MJIエンタープライズの日本の親会社である合同会社quarante(キャラント)の3者が、今般ミャンマーでのマイクロファイナンスファンドの組成に向けた提携を行ったのを記念して、ミャンマーから加藤さんをお招きしたイベントです。
MJIエンタープライズについて
加藤さんは高校生のときにタイに交換留学した経験や、自身も経済的な事情で進学を諦めた経験から、海外で働く、金融を通じて貧困削減に貢献するマイクロファイナンスの仕事を選んだそうです。
加藤さんが代表を務めるMJI Enterpriseは、2013年に設立され、2015年にマイクロファイナンス事業を開始。融資残高は円ベースで2億円以上、ミャンマー国内に7支店があります。
融資対象は女性、事業目的のお金を融資し、所得の低い人たちの生計向上を支援しています。グラミン銀行などと同じく、5人のグループ貸付(連帯責任)、週1回のセンターミーティングを通じた返済の仕組みを取ります。
主要な顧客は兼業農家などで、農閑期に商店などのスモールビジネスをやるための資金を借りるケースが多いそうです。
ミャンマーでは、2011年に外資開放が行われ、バングラデシュのBracや韓国のハナ、日本のイオングループなど多くの大手外資がマイクロファイナンスを展開。ミャンマー国内のマイクロファイナンス機関(MFI)の融資残高のうち、8割を外資が占めるとのこと。
ミャンマーのマイクロファイナンス事情
農地を持つ人は、金利が8%程度の農業銀行から土地を担保に融資を受けられますが、貧しい人は借りられません。マイクロファイナンスがない時代には、彼らは、金利60~200%にも及びインフォーマルな金融にしかアクセスできませんでした。インフォーマルな金融=いわゆる非合法な高利貸しで、財力のある村の名士や親戚などからお金借りることも一般的だとのこと。
一方、マイクロファイナンスの金利は30%程度ですが、ミャンマー国内の貸倒率は1%程度とアジアの中でも低いそうです。ただし、マイクロファイナンスの普及に伴い、ミャンマーでも多重債務は一部で問題になり始めています。「お金は人を活かすことも殺すこともできる身近な凶器」との加藤さんの言葉がありました。
ミャンマーのマイクロファイナンスの課題と展望
マイクロファイナンスは普及しつつありますが、地域別にみると、ヤンゴン、マンダレーなどの大都市にMFIや融資残高が偏っています。今後はニーズの高い地方や農村部への展開が求められているとのこと。
農村部では、まだまだインフォーマルな金融が残っており、元金一括でないと返済できず借金が減らない、支払わなければ無償労働させられるなど、非合法なものも多いそうです。
加藤さん率いるMJIとしては、フォーマルな金融へのアクセス機会を農村部でも可能とするため、現在ある7つの拠点を増やしたいと考えています。
また、商品性の面では、借入期間や返済方法などの柔軟性がまだまだ少ないため、個々の借り手にあった使いやすい商品の提供を目指します。
金融機能以外のサポート
マイクロファイナンス機関の仕事は、お金を貸すだけではありません。MJIは、生計向上のために、金融以外のサポートやお金の教育などのノンフィナンシャルサービスも行っています。
代表的な取り組みとして、顧客向けの無料情報誌「Mango」が紹介されました。マイクロファイナンスを活用してステップアップした借り手の事例紹介や、多重債務防止のためのリテラシー向上教育、生活や仕事に役立つコンテンツを盛り込んでいます。子どもたちへの教育の重要性もお母さんたちに伝えています。
LIPの現地レポート
最後に、ファンド立ち上げに向けたデューデリの一環で行った、Living in Peaceの方々の現地訪問の様子も紹介されました。
MJIから融資を受けている女性たちが集まる実際のセンターミーティングの様子や、雨季の農村の決していいとは言えないインフラ事情なども分かりやすかったです。
感想
アジアで実際にマイクロファイナンス事業を行っている人、しかも日本人の方から直接話を聞けて非常に参考になりました。
ちょうど先日、NHKの「マネー・ワールド~資本主義の未来」という番組で、ミャンマーでのマイクロファイナンスを外資のハゲタカによる貧困ビジネスかのように批判的に取り上げていました。加藤さんのお話で、それがかなり一面的なものだということが分かりました。
もちろん、加藤さんの言う通り、マイクロファイナンスは万能ではなく、課題もたくさんありますが、しっかりした理念を持って頑張っているMFIをサポートすることは、相手国の貧困削減や国づくりに貢献できるものだと思います。
ファンドがリリースされたら参加したいと思っています。
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